しし座流星群特集

▼なぜ?99年に流星が大出現?
 「テンペル・タットル彗星の軌道周期と同じ
  33年ごとに大出現。
  そして前回の大出現が1966年だったから」

 そもそも、なぜ1999年の11月18日に「しし座流星群」の大出現が起こると予想されているのか? その根拠を、過去の記録と、流星群と彗星との関係をふくめて解説しよう。

●11月18日に「しし座流星群」が出現するのは?
●しし座流星群の大出現は33年周期で繰り返す
●流星群の素となるのは、彗星から放出されたチリ



●11月18日に「しし座流星群」が出現するのは?

 そもそも流星は、地球に降り注ぐ「チリ」によって起こる現象だ。
 「しし座流星群」の素となる微小なチリは、テンペル・タットル彗星から放出されたもので、このテンペル・タットル彗星のことを、しし座流星群の母彗星(ぼすいせい)と呼んでいる。
 母彗星自体は、1998年2月28日に太陽に最接近した後、1998年3月8日に地球軌道面を北から南に通過している。しかし、母彗星の軌道上には、過去の接近で放出されたチリが拡散して分布しているために、母彗星の軌道に地球が接近するたびに、流星群が見られるというわけだ。そして、母彗星の軌道と地球が接近するのが、毎年11月18日ごろとなる。ある特定の時期に流星群が見られるのはこうした理由による。

テンペル・タットル彗星

テンペル・タットル彗星

彗星の軌道

テンペル・タットル彗星の軌道 

○母彗星通過と流星群大出現の関係

 さて、1998年の場合地球は、母彗星の軌道上に拡散して分布している流星素物資=彗星核から放出されたチリの流れに、彗星核通過から258日遅れて遭遇した。
 そして今年1999年11月18日の場合は、彗星核通過から623日後の通過となる。
 彗星核に近いほど多くのチリが軌道上にあって、それが大出現に結びつくことが多いという考え方があり、この説に沿って昨年は大出現が期待されたわけだが、実際はそうならなかった。むしろ、流星素物質の密度分布は核からの距離で単純に決まるものではないことから、1998年に大きな出現が見られなかったからといって、1999年はさらに出現数が減るとはいえず、運よく昨年より濃密な素物質領域に遭遇して、あっと驚く大出現になる可能性も充分にある。この辺の出現予測は、確固たる観測的裏付けがあるものではなく、実際に観測してみないとわからない。ただし母彗星が地球軌道と交差した直後2〜3年ほどは、大出現のチャンスがほぼ等しくあるといってよいだろう。

 ところで、この時の地球の公転方向と、流星素物質の流れのベクトルの合成されたものが、地球大気に飛び込んでくる流星の方角となる。「しし座流星群」の場合は、それが見かけ上、しし座の方角にあるので「しし座流星群」と呼ばれる。
 昨年の母彗星の回帰の場合、彗星軌道は、実際には月までの距離の3倍ほど地球軌道の内側=太陽側を通過した。一般には、この距離が近いほど、より多くのチリが存在する部分に地球がぶつかり、流星の大出現となる可能性が高いと言われている。


●しし座流星群の大出現は33年周期で繰り返す

 1999年の大出現が期待されている「しし座流星群」だが、なぜ1999年が特別なのだろうか?
 しし座流星群は毎年11月18日前後に出現しているが、例年なら極大時でも1時間に10個以下の流星が見られるだけの、ごくありふれた流星群だ。出現数だけを見れば、8月のペルセウス座流星群や、12月のふたご座流星群の方がはるかに多い。なぜ今年が特別なのかを理解するには、まず、しし座流星群の出現の歴史を振り返る必要がある。

1799年の大出現
1799年、南米。探検航海に、南米に出かけていたドイツの探検家フンボルトが、ベネズエラのクマナにて、偶然、「しし座流星群」の大出現に遭遇し、詳細な記録を残した。
想像イラスト/高部哲也・リブラ


1833年の大出現
1833年、北米。しし座流星群の大出現を伝える有名な木版画(モノクロ画に彩色)。「世界が火事だ」と叫んだ人がいたといわれるほど、全天が流星で埋め尽くされているさまがわかる。

 

 今から200年前の1799年11月12日の早朝、探検家のフンボルトは、南米のベネズエラで予期せぬ流星の大出現に遭遇して、これを記録に残している。この34年後の1833年11月12日、今度はアメリカで同様の大出現が目撃された。この時、流星は、しし座の方角を中心として四方八方に飛び出すように見えること、その流星出現の中心=放射点が、日周運動にともなって動いていったことなどが記録された。この意味で1833年の大出現は、単に流星の数が極めて多かったというだけでなく、初めて科学的な視点で捉えられた流星大出現であったと言える。

 続いてさらに33年後の1866年にも前2回より小規模ながら、同じ時期に、しし方向から四散する多くの流星が見られた。そして、この大出現の直前に発見された、テンペル・タットル彗星の軌道が、しし座流星群のものと一致することに天文学者が気がついたのである。これに先立ち、8月のペルセウス座流星群と、スイフト・タットル彗星の関係も明らかとなっていたこともあり、1866年は、流星群の周期的出現メカニズムにひとつの回答が与えられた年となった。

 「流星群とは、彗星が太陽に近づいた時に、軌道上に放出したチリが、しだいに拡散していって、流星素物質の流れを作り、その流れが地球軌道と交差する時に、大挙して地球大気に衝突して発光している現象」であると考えられるようになったのである。この流星の素となるチリを放出した彗星のことを「流星群の母彗星」と呼ぶ。テンペル・タットル彗星の公転周期は約33年。つまり、しし座流星群の母彗星がテンペル・タットル彗星であることが判明し、ここで、しし座流星群が約33年の周期で大出現を見せる理由が、経験的にではなく理論的に実証されることになったのである。

1966年の大出現
1966年、北米。アメリカのアリゾナ州で目撃された、しし座流星群の大出現を記録した写真(撮影/D.マイロン氏)。放射点を含む構図のわずか3.5分の露光中に、60個を越える数の流星が写っていることからも、この時の出現がいかに激しかったかが想像できる。

 

 こうなると、次の1899年前後、1932年前後にも、大規模な流星群の出現が期待されたが、小規模な出現にとどまってしまった。しかし、1966年、またしても「しし座流星群」は1時間に万単位の大出現を起こすことになる。この大出現が記録されたのはアメリカで、現地時刻で11月17日の午前2時半から夜明けの6時ごろまであった。そのトータル数十万個、ピーク時には1時間の出現数に換算して15万個というすさまじさだった。

 そして、そのまた33年後が、今年1999年にあたる。つまり、約33年ごとの、しし座流星群の大出現の周期とは、母彗星の公転周期であり、それは、とりもなおさず母彗星の周りのチリの公転周期でもあるわけだ。


●流星群の素となるのは、彗星から放出されたチリ

 しし座流星群の母彗星であるテンペル・タットル彗星の回帰は昨年1998年の2月28日であり、現在は太陽から遠ざかりつつある。この母彗星の周りには、太陽接近時に放出されたチリが濃密に分布している。下は太陽に接近して、激しく揮発成分(水や一酸化炭素、シアンなど)を放出するテンペル・タットル彗星の想像図。彗星の核は、小さな岩石成分を含んだ氷の塊(汚れた雪だるまと形容される)だと考えられていて、太陽熱で融けた揮発性成分がガスとなって、核から噴出している。

想像イラスト
太陽に接近してガス成分を吹き出すテンペル・タットル彗星。
想像イラスト/遠山御幸

 このとき彗星核から噴出したガスは、イオン化して、太陽とは反対に伸びるイオンの尾(ガスの尾、プラズマの尾とも呼ばれる)を形成する。一方、ガスとともに放出された岩石成分の中で、流星の素となるチリより小さいミクロンサイズものは、太陽からの光圧で、しだいに彗星の外側に拡散していき、ダストの尾(チリの尾)となる。

ヘール・ボップ彗星
1997年3月のヘール・ボップ彗星。太陽の反対方向に伸びる青色のイオンの尾は、プラズマ化したガス成分で、白く太く右方向に伸びているのがダストの尾。写真撮影/高岡誠一


テンペル・タットル彗星
近日点通過前の1998年2月17日に撮影された、55P/テンペル・タットル彗星。この彗星は、それほど大きなものではなく、ごくありふれた周期彗星で、ダストの量も多いほうではない。写真提供/国立天文台

 彗星核から放出されたダストの中で、流星の素となる『ミリサイズ』の破片は、彗星核近傍にとどまり、放出時のスピードを得て、わずかに彗星核とは違う軌道をとり、しだいに彗星軌道上付近に拡散していく。この時、太陽接近時に彗星核から前方に放出されたチリは、加速され彗星核より大きな軌道となり、公転周期は長くなる。逆に後方に放出された場合は減速されて、軌道が小さくなり周期が短くなる。こうして、何回かの母彗星の回帰の後、彗星核のまわりに流星素物質の流れができる。さらに、流星の素となるチリは、彗星核からの放出スピードだけでなく、太陽からの光圧の影響を受け、わずかに軌道が外側に変化する。これによって、チリの軌道は、彗星核より大きくなる傾向があり、全体としては彗星核の前方より後方の方により多く分布することになる。これが、流星群の素となるチリの流れの形成過程であって、彗星核自体が地球近傍を通過する前後、とくに通過後2〜3年にわたって、流星群が大きな出現を見せる理由でもある。

 ちなみに、今回の母彗星の太陽接近に伴って放出されたチリは、まだ母彗星のごく。近くにあって、母彗星から大きく拡散はしていない。今回、大出現が期待されている「しし座流星群」の素となるチリは、数回前の太陽接近時に放出されたチリによるものだ。

チリの流れ
母彗星のテンペル・タットル彗星の軌道に拡散していく流星の素となるチリの流れ。  

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