▼なぜ?しし座から流星が飛び出す?
「地球軌道付近でチリの流れが、
しし座方向から流れているから」
「しし座流星群」は、しし座の方角から四方八方に流星が飛び出してくるように見えるから「しし座流星群」というのだが、なぜしし座からなのか?
視点を宇宙空間に置いて順番に説明してみよう。
●流星の素になるチリの流れに突入する地球
●流星が、しし座から四方八方に飛び出すのは?
●流星の素になるチリの流れに突入する地球
「しし座流星群」の名は、流星がしし座の方角から四方八方に飛び出してくるように見えるからだ。同様に8月の「ペルセウス座流星群」は、ペルセウス座から、12月の「ふたご座流星群」は、ふたご座から流星が飛び出してくるように見える。
この流星の飛び出してくるように見える中心を『放射点』(輻射点と呼ばれる場合もある)と呼び、しし座流星群の場合は、しし座の1等星レグルスの北側の、3等星アダフェラ(しし座ζ星)の近くにある。
下図は、宇宙視点から見た、テンペル・タットル彗星が放出した流星素物質の流れに遭遇する地球のようす。流星素物質の流れの速さは、秒速約40キロメートル、地球の公転による速さは秒速約30キロメートル。この両者がほぼ正面衝突するため、地球大気への流星素物質の衝突スピードは秒速約70キロメートルにも達する。
この時の地球の公転方向と、流星素物質の流れのベクトルの合成されたものが、地球大気に飛び込んでくる流星の方角で「しし座流星群」の場合は、それが、しし座の方角にあるというわけだ。そして、この流星素物質の流れの濃さにはムラがあり、うまく濃密部分に地球が遭遇すれば流星の大出現となる。
流星の素となるチリが地球に飛び込んでくる方向に、しし座がある。
チリの流れは、地球と正面衝突するようにぶつかってくる。
●流星が、しし座から四方八方に飛び出すのは?
ここまで「飛び出してくるように見える」と書いてきたが、それは、放射点が実際には「打ち上げ花火の中心」のようなものではないからだ。打ち上げ花火はその3次元的広がりが「球」であるのに対し、流星群では、見かけ上、放射点に中心があるように見えているにすぎない。
わかりやすく言えば、いきおいよく吹き出している流星のシャワーを真正面から見ている状態で、あるいは、ほとんど平行に進んでいる太陽の光も、真正面から見ると、太陽から四方八方に広がっているように見えるのと同じだ。
もちろん、流星の素は、しし座から飛び出しているわけではない。太陽系内を流れる流星の素(チリ)の軌道が、地球軌道と交差する付近では、しし座の方向から飛んでくるので、しし座から飛び出しているように見えるわけだ。
このことを理解するには、太陽系内の流星素物質の動きや、それが地球大気へ突入してくる過程を見なければならない。
○流星の素は、地球に「落ちて」来るのではなく、「突入」して来る
下図は、流星の素となるチリが、地球大気に「突入」しているようすを描いたもので、そのスピードは『秒速約70キロメートル』というすさまじい速さだ。
流星の素物質は、彗星核から放出された砂粒から小さな石ころぐらいの大きさのものだが、それほど硬いものではなく、岩石成分が緩やかに結着したものだと考えられている。ともかく、この砂粒が猛スピードで地球に衝突してくると、地球大気との摩擦で高温になり融けて気体へと蒸発してしまう。そして、周りの空気をも圧縮加熱しながらプラズマの塊となり、発光する。これが地上から見える流星というわけだ。
この流星を、真横から眺めると、すべて平行に飛んでいるのがわかる。
チリは、地球大気と衝突して光熱となりプラズマの塊となって発光する。
イラスト/加賀谷 穣・星の手帖社
流星の発光してる地上高度は120〜80キロメートルとされている。
作画協力/高部哲也・リブラ
流星が光って見えている地上高度は、120から80キロメートルあたりで、流星の素となる彗星核からの放出物の流れは、地球近傍のごく狭い範囲ではすべて平行に流れていると考えることができる。つまり流星は、放射状に飛んでいるのではなく、すべて地上100キロメートルあたりを発光しながら『平行』に飛んでいる。このチリが大きいほど明るく流星経路も長くなり、小さないほど暗い流星で経路も短くすぐに消滅してしまう。
下イラストは順に、地表高度500キロメートル、100キロメートル、20キロメートルから見た「しし座流星群」のようすで、流星の素となるチリの流れに含まれる砂粒から小石大のダストは、それぞれ平行に流れていて、視点を遠くにとれば平行に見える。地上100キロメートルあたりで発光している流星を、地表付近から見ると遠近感が生じ、流星の飛び込んでくる方向=しし座方向から四方八方に飛び出すように見えるというわけだ。
これは、自動車で、直線の道路を走っていて、平行であるはずのセンターラインと道路左右のガードレールがはるか前方では1点に収束しているように見えるのと同じ、もしくは、地上から見上げた高層ビルが、ビルのてっぺんほど細く見えることと同じ理由による。道路も、ビルの四隅の壁も、実際には平行なのに、遠くで収束して見えていることと同じだと頭の中で想像してほしい。
地上高度500キロメートルから見下ろした「しし座流星群」。流星の素となるチリは平行に地球大気に突入していく。 流星が発光しているのは、地上高度100キロメートルあたり。ここから見ると矢のように流星が降り注ぐ。
地上高度20キロメートルから見上げた「しし座流星群」 地上から見上げた「しし座流星群」。放射点は、しし座の頭付近にある。
視点を変えて見た「しし座流星群」イラスト/加賀谷 穣・星の手帖社
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