動画から火星模様を描出する part1
〜口径10cmクラスの望遠鏡でもこんなにクッキリ
1. 動画記録が火星撮影のトレンド
「火星の撮影なんかムズカしそうだ」と思っている人も多いのではないだろうか。天体写真にもいろいろあるが、惑星は始めやすい天体写真なのだ。山奥まで行かなくても街中で撮影できるのがその理由の一つ。さらに、ビデオカメラやWebカメラなど一般的な機材でもちゃんと撮影できるからだ。
惑星写真は、静止画ではなく動画で撮影するのが最近のトレンド、というか主流になりつつある。惑星写真はアイピースを使って強拡大して撮影するため、大気の揺らぎの影響などを受けやすい。このため、1カットだけで鮮明な画像を得られることはまずない。
惑星はビデオカメラでも十分に写すことができる。ビデオの露出時間は1/30秒。大気の影響で惑星像はゆらゆら揺れるが、1秒間で30フレームもの惑星像を得られるので、中にはタイミングよく揺らぎが少ないフレームもある。こうした写りのよいフレームだけを抽出して合成しようという作戦である。
2.火星を動画で記録する
今回は火星を撮るのが目的だ。火星の視直径は最大で約20秒角。2年前の大接近時は約25秒角だったので、見かけは小さくなるが、それでも十分見応えのある火星を楽しめる。
これだけ小さな対象の、さらに表面の模様まで写そうというのだから、当然アイピースによる拡大が必須になる(受光部面積の小さなwebカメラでは、バローレンズで焦点距離を伸ばしただけでも十分大きさになる)。
さらに動画を撮るためのデバイス、つまりビデオカメラも必要だ。ここではDV(デジタルビデオ)カメラを使ってみた。長時間(60〜90分)の撮影にも対応できるし、パソコンでフルデジタルでの処理ができるので便利だ。
3.火星動画撮影の実際
惑星写真は星野写真による長時間露光に比べると機材面のセッティングは簡易ですむ。露出時間は最長1/30秒なのでオートガイドは不要だ。赤道儀の極軸調整もシビアに追い込む必要はない。北極星が見えないマンションのベランダでも撮影が可能なくらいだ。経緯台式追尾架台でも数分の撮影なら模様もズレない。
まず、アイピースを肉眼で覗いてキッチリとピントを合わせておく。その上でDVカメラを接続する。DVカメラの設定は、画質重視でSPモードをセレクト。光学ズームはとりあえず最もワイド側にセットしておく。望遠鏡のコントローラを操作して、火星を画面の中心にとらえたら、火星像の明るさが感度不足で暗くならない程度に、ズームで拡大していけばよい。また、撮像画素数が出力画素数(720×640≒45万画素)に対して余裕のある機種ならデジタルズームを併用してもよい。フォーカスは、マニュアルで合わせられる機種ならば無限大(∞)にしてから、望遠鏡側の接眼部を使ってピントを追い込んでいく。
撮影を開始したら、望遠鏡に近づかないようにしよう。わずかな振動が望遠鏡に伝わり、星像がゆらいでしまうからだ。録画操作はビデオカメラのリモコンを使おう。もちろん人が熱源となるので鏡筒の先端近くに立つのは御法度だ。
4.映像をパソコンにムービーファイルとして保存
撮影を終えたら、DVカセットに記録されたムービーをひとまずパソコンのハードディスクに転送する。DVカメラとの接続はi.Link端子(IEEE1394端子)を用いる。最近のパソコンならばほとんど装備されている端子だ。取り込み用ソフトウェアは、Windows標準の「Windowsムービーメーカー2」を用いると簡単だ。
DVDオーサリングソフトなどでもDVからのキャプチャができる製品もあるのでそれでもかまわない。注意点は一つ。映像形式には「DV-AVI形式(標準DV形式)」を選ぶこと。他の形式だと圧縮がかかってしまい、映像が劣化する可能性があるからだ。拡張子AVIのファイル形式で保存すれば、Windowsムービーメーカー2での作業は終了だ。
取り込み時は必ず「DV-AVI形式」を使う。サイズが大きいのでHDDの容量が必要だが、画質の劣化がないのが特徴だ。[推奨]の方がよさそうに思えるが、間違えないようにしよう。
5.ステライメージへの動画の取り込み
いよいよ、画像処理に入る。ステライメージ5では、惑星画像処理機能が強化された。これらをうまく使えば見違えるようなシャープな火星像を得ることができる。
ステライメージは、動画ファイルを直接取り込むことができる。[ファイル]→[動画を開く]で、上で作成したムービーファイルを指定する。
さて、火星の映像はどのくらい撮影しただろうか。数分〜数十分が普通だと思う。まずは、ムービーを全体を再生し、ざっと流して見てみよう。そして、最もよく写っている時間帯にあたりを付ける。「よく写っている」ポイントは、惑星の模様がクッキリ見えるかどうか。惑星撮影のポイントはイチにもニにも大気の揺らぎ、すなわちシンチレーションなのだ。わずか数分の撮影時間中にも大気の状態は刻々と変化している。最も安定していそうな数秒間を見つけ出そう。
6.良質な画像だけを選び出してコンポジット
画像処理の目的は、いかに火星表面の模様を描き出すかだ。1フレームだけではノイズに紛れて模様どころではない。複数の画像を重ねる(コンポジットする)ことで、S/N比を高めてなめらかな画像にすることができる。
しかし、やみくもに重ねるだけでは意味がない。条件のよいシーンを選んだとはいえ、中にはゆらぎの大きい時のボケたフレームもある。良いフレームと悪いフレームが混在しているのだ。これら全てを重ね合わせても平均的な画像しか得られない。ならば、条件のよいフレームだけを選び抜いてコンポジットすれば、よりクリアな画像を得られることになる。しかし、ムービーは1秒間に30フレームもの画像がある。5分間でも9000フレームになる。例えば9000フレームの中から良質の1000フレームを選べといわれても途方に暮れてしまうだろう。
そこで、ステライメージ5の動画コンポジット機能を使おう。各フレームのシャープさを画像解析プログラムで判断し、よいもの順にソートしてくれる。元となる枚数は多ければ多いほどよいが、それだけ処理時間がかかるので、まずは300フレームくらいを取り込むとよい。フレームを選択後[コンポジット]ボタンを押すと画像解析が始まる。この作業には数分かかる。
画像解析が終わると、コンポジットダイアログに移る。[対象フレームリスト]のリストビューから[評価値]と書かれているタイトル行をクリックすると、評価値の大きい順にソートが行われる。この評価値が大きければ大きいほど、よい画像(鮮明な画像)なのだ。
では上位何フレームを使えばいいのかということになるが、少なすぎるとS/N比が上がらず、ザラザラした火星像になってしまう。逆に多すぎると質の悪い画像も混ざり込むため、シャープさが損なわれていく。
また、コンポジット枚数はある枚数以上にしても画質が向上しなくなるポイントがある。そのポイントは使用した望遠鏡や撮影時の大気の状態、カメラの性能などで変化するので、一気に大量コンポジットを行おうとせず、効果を見ながら少しずつ増やしていくのがよいだろう。
ここでは例として上位1/3の100フレームをコンポジットすることにした。上位の100フレームのみチェックボックスをオンにしたら、その前に[位置合わせ]方法を[画像の重心]にしておきOKボタンを押す。これでコンポジット作業が始まる。
[位置合わせ]とは、火星の像が大気の影響で上下左右にユラユラと移動したり、赤道儀やガイドの精度で時間経過とともに徐々に動いたズレを自動的に補正してくれる機能だ。[画像マッチング]は[画像の重心]より精密に画像解析を行うが、処理時間が膨大にかかる。火星のコンポジットに限れば[画像の重心]で十分だ。