ステラナビゲータ 製品情報 | ご挨拶 | ステラナビゲータ 20年の歴史 | 年表 | トリビア
「ステラナビゲータ」は、天文現象の観測計画立案や天体写真撮影の構図検討、自動解説でプラネタリウム風に楽しむなど、天文趣味においてさまざまな場面で活躍している定番の天文シミュレーションソフトである。その「ステラナビゲータ」もバージョンアップを重ね、現在(2012年7月)はバージョン9が販売中だが、初代の発売からこの夏で20周年を迎えた。これを機に、開発スタッフのインタビューも交え、これまでの「ステラナビゲータ」の歴史をたどってみよう。
20周年を機に話を聞いた「ステラナビゲータ」の初期の開発メンバー。
左から、現アストロアーツ代表取締役の大熊正美、プログラムチーム主任の上山治貴、門田健一、安喰修。
初代はNEC PC-9801のMS-DOS版
天文シミュレーションソフトの初代
の発売は、1992年7月。アストロアーツのプロデュース、アスキー出版局(当時)による販売という形態で産声をあげた。当時、国内で主流となっていたPCはNEC(日本電気)のPC-9800シリーズだ。初代「ステラナビゲータ」も、PC-9800シリーズ用のMS-DOS上で動作するアプリケーションだった。供給メディアはフロッピーディスク2枚で、5インチと3.5インチの2種類のディスクが同梱されるというスタイルだった。
「株式会社アストロアーツの設立は1991年6月です。つまり、創業からほぼ1年という期間でのリリースでした。プログラムやマニュアルの書籍部分も含めて、社外の協力も得つつ、当時のわずかなスタッフでなんとかまとめ上げたのを覚えています」と振り返るのは、アストロアーツ代表取締役社長の大熊正美。
初代は、当時のアプリケーションとしていくつもの先進的な機能を備えていた。ひとつは描画の美しさだ。PCのグラフィックの画素数が640×400ドット、色数が4096色中16色表示のものが主流となっていたころだったが、特徴的なのはその後のステラナビゲータシリーズに続く「薄明の空の色」の表現である。
また、プラネタリウム的な地平座標モードのみならず、星図的な赤道座標モードや天球を円盤に投影する星座早見モードなどを切り替えて使うことができた。もちろん、天体データも当時としては充実度が高く、恒星8,952個(6.5等まで)、星雲・星団571個、変光星11個をはじめ、太陽系惑星や流星群など多彩な天体をサポートしていた。
PCのインターフェースは、それまでのキーボードによるコマンド入力から、マウスによる操作が一般的となりつつある時代で、初代「ステラナビゲータ」も操作はGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)によるものだった。アイコンをマウスでクリックして、さまざまな操作を行うわけだが、その操作体系がわかりやすいこともステラナビゲータの大きな特徴だった。それは、その当時、一部のプログラマがインターフェースの手本としていたアップル社のヒューマンインターフェースガイドライン(Human Interface Guidelines・1989年日本語版刊)にできるだけ準じ、操作体系を具現化したものだからだ。
「じつは、MS-DOS用のアプリケーションにもかかわらず、マウスの左ボタンしか使わない仕様になっています。当時のマッキントッシュには、マウスボタンがひとつしかなかったので右クリックの概念がなかったのです」というのは、アストロアーツ創設直後に開発メンバーに加わったプログラマーの安喰修。
「初代のMS-DOS版と、続くWindows版の操作系の大きな違いは、ダイアログ内の『OK』と『キャンセル』のボタンの位置の左右が逆ということ。これはアップルとWindowsのガイドラインが異なっているからなんです」というのは、二代目となる「ステラナビゲータ for Windows」から開発を手がけているプログラマーの門田健一。
この初代の発売当時には、国内外にいくつかの天文シミュレーションソフトがあったが、描画の正確さと美しさ、操作のわかりやすさ、そして日本語表示ということもあって多くのユーザーを獲得することになる。
スクリプト言語ステラトーク
ところで、初代「ステラナビゲータ」で特筆すべきは、736ページにも及び、後に『電話帳』と称される分厚いマニュアルが同梱されていたことだ。現行のアプリケーションでは、オンラインヘルプを充実させ、冊子のマニュアル類は最小限にとどめるのがほとんどだが、当時は辞典のようなマニュアルが付属した製品が多かった。
マニュアルの執筆を手がけた大熊は、「当時、ステラナビゲータを手にした方は、おそらくこうしたアプリケーションを使うことがはじめてだろうと考えていました。そこで、ステラナビゲータに搭載されたすべての機能解説はもちろん、天文の基礎知識的な内容を盛り込んだら、ご覧のとおりのボリュームになってしまいました」という。
そのマニュアルのほぼ半分を占めていたのが、『ステラトーク』の解説だ。ステラトークとは、ステラナビゲータの描画を制御するためのスクリプト言語である。ステラナビゲータは、ステラトークで記述したコマンドを解釈することで、さまざまな描画が可能になるという仕組みだった。時刻を変更したり、視野の方向を変えるなど、操作の記録、保存、再生が可能だが、これを実現しているのもステラトークなのである。
ステラトークは、その後のステラナビゲータシリーズに受け継がれていく。さらに、スクリプト言語での星空表現という概念とスタイルは、PCというプラットフォームを越え、アストロアーツのさまざまな製品群にも応用されていくことになる。
Windowsの進化と共に
初代発売から2年後の1994年に
が発売になる。PCとOSの進化に伴って、16ビットのWindowsアプリケーションに生まれ変わった。 Windows3.1が普及し始めていたころのことである。実際にMS-DOSからWindowsへの移植作業を行った門田は、「初代発売のころ、いわゆるPCの黎明期から天文シミュレーションというジャンルのアプリケーションがたくさん世に出ましたが、今もバージョンアップを続けているものはほとんどありません。ステラナビゲータが20年の長きにわたり多くのユーザーの支持を得ているのは、PCのハードウェアやWindowsの進化に確実に追従してきたことも一因でしょう」という。
扱えるデータ量も増え、表示できる恒星数は44,983個(8等まで)になり、グラフィック環境も256色の同時表示が可能になったことから、夕焼けのグラデーションや天の川を滑らかに表現できるようになった。また、自動導入望遠鏡の登場で、PCから目的の天体を導入することも可能となり、シリアルポートを介して行う望遠鏡コントロール機能も正式に搭載された。
さらにその翌年の1995年末には
が発売となる。Windows版としては2番目のバージョンだが、初代から数えること三代目となる。PCの進化を反映して、供給メディアがCD-ROMとなり、データ量はますます増えることになる。テキストベースではあるものの、天体小辞典や天体写真を表示するスライドショー、さらにはエンターテインメント性を高めるプラネタリウム番組も収録された。番組は「四季の星座ガイド」など、ジャンルごとに12本をラインアップ。もちろん、スクリプト言語のステラトークで記述されたものだ。「Ver.2.0 for Windows」には、独立したもうひとつのシミュレーションである「ステラキッド」が同梱されていた。これは、ステラナビゲータそのものの高機能が進んだことから、ビギナーの方が気軽に天文シミュレーションを楽しめるように機能を限定し、操作体系を単純化させたものだ。
星図描画エンジンCorStl
1990年代も終わりに近づくと、PCのグラフィック性能も飛躍的に伸びていく。表示画素数はもちろん、いわゆるフルカラーの表示が可能になり、さらにWindowsはActiveXと呼ばれる機能を盛り込むことで、汎用的な機能をモジュールとして分離開発することが可能になった。
1999年4月に発売となった
では、このActiveXを取り入れ、それまでステラナビゲータを操作するためのユーザーインターフェースと合わせてひとつのプログラムだった描画部分を、CorStl(コルステラ:ステラの心臓)と呼ばれる星図描画エンジンとして独立させている。これにより、星図描画をアプリケーションとは別に進化させることが可能となった。ちなみに、この「5」より、初代のMS-DOS版から通して数えたバージョンナンバーが採用されることになる。
さらに、2002年8月に発売された
では、星図描画エンジンをCorStl2へと全面改定した。これにともない、ステラトークも刷新され「6」以前の書式と互換性がなくなったが、さらに柔軟な記述で星図の表現が可能になった。CorStl2では、それまで線画であった星座絵に絵画調のものを加えるなど、より一層、星図描画の美しさにこだわったものだった。
続く
は、2004年10月のリリース。天文現象の「お気に入り」をメニューに取り入れるなど、操作体系を一新している。さらに、観測場所を地表に限定せず、太陽系内を自由に移動できるフライトモードを搭載した。標高メッシュデータを搭載することで、観測地から見えるスカイラインを表示することも可能になった。「7」では、プロのプラネタリウム解説者によるオリジナル番組も収録。ややエンターテインメント性に注力したバージョンともいえるだろう。そのため盛り込まれるデータは膨大になり、供給メディアがCD-ROM4枚組になっている。
そして未来へ
こうして「ステラナビゲータ」の歴史は、現行の
の発売へと至る。「9」の発売は、2010年8月だ。ユーザーインターフェースにリボンバーを採用するなど、再び操作体系を刷新。観望や撮影、日月食などの目的別に特化した表示を切り替える「スタイル」機能が追加されている。最後にこれまでのステラナビゲータ、そしてこれからのステラナビゲータを核とした製品開発へのビジョンを関係者に聞いてみた。
アストロアーツのプログラムチームを束ねてきた上山治貴は、「最初のバージョンを作っていた頃は、『すべてのモニタに星空を!』などと意気込んでいましたね。『将来はこの映像をプラネタリウムのドームに投影するのが俺たちの夢』なんて……」と懐かしむ。それが今では、携帯ゲーム機やスマートフォン用の星空シミュレーションをはじめ、ドーム投影用のデジタルプラネタリウムまでを手がけるようになった。
「今後は、ステラナビゲータを中心に、ポストPCを考えていかないといけません。『いつでもどこでも星空を』というスタンスを続けていきたいです」と続ける。
「そもそもは星好きが集まり、自分たちが実際の天体観測や観望、撮影で使うツールとして、『こんなものがあったらいいよね』というものを作ってきました。20年もの長い間、高いモチベーションを保ってこられたのは、やはり開発に関わっている者たちが、そろって星が好きだからこそでしょう」と社長の大熊。
「これからは、本当の意味での『ナビゲータ』になっていくことが必要だと考えます。いつ、どこにいても、実際の星と照らし合わせて、ユーザーの『星を見たい、知りたい』という要求に的確に応えられるようなシステムを作り上げていきたいですね」
――ステラナビゲータシリーズの進化は、20周年の後もまだまだ続く。
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