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星ナビ news file 2005年3月号
レポート: 飯島 裕
※この記事は星ナビ2005年3月号に掲載されたものです。
関越自動車道を東京から下って行くと、鶴ヶ島インターチェンジを過ぎたあたりでちょうど正面に、山頂に天文台のドームをのせた堂平山が見えてくる。標高876m。埼玉県はもちろん、関東平野のどこからでも望むことのできる大きな丸みをおびた山である。
堂平山に天文台が建設されたのは1962年。当時の東京大学東京天文台・堂平観測所として開設され、のちに国立天文台・堂平観測所となり2000年3月に閉所されるまで、岡山天体物理観測所と並んで天体観測の最前線で活躍してきた天文台だった。東京から近いこと、冬季の晴天率がずばぬけていいことなどが、この天文台のメリットだったのだが、さすがに夜空が明るくなりすぎ、有効な観測ができなくなって閉所されたのだ。
しかし喜ばしいことに、多くの天文学者に親しまれ、また天文ファンや地元の人々にとってあこがれの天文台だった堂平観測所は、大幅にリニューアルされこの4月から私たち一般の市民のための堂平天文台として復活することになった。
国立天文台から設備を引き継ぎ、運営の主体となったのは地元の都幾川(ときがわ)村。村では、堂平山の山頂一帯を「星と緑の創造センター」と名付け整備を進めている。91cmの望遠鏡を核に、天体観察や森林体験、野鳥観察など、総合的に自然体験のできるフィールドとしてゆく考えだ。
現在、天文台ドームの整備は完了し、観測室に隣接していた準備室や事務室は、食堂、休憩室、調理室、浴室などに改装されている。91cm望遠鏡は観望会を中心とした使用に限られるが、双眼鏡は貸出しも行っている。観望に疲れたら、施設内の休憩室でくつろぐこともできる。
かつての観測者用宿泊棟や、月・人工衛星レーザー観測装置が設置されていた跡地には、宿泊できるログハウスと天窓付きのパオ、屋外キャンプ用の自炊設備がつくられている。パオは現在2棟だが、さらに増設される予定。また、常時使用することのできない91cm望遠鏡の代わりに、宿泊者が使うことのできる望遠鏡の設置も計画にあるとのこと。村の堂平山にかける意気込みには、堂平山は都幾川村のシンボルであり、誇りでもあるという思いが感じられる。
昨年の12月11日には改装の済んだ天文台で観望会が開催された。当日は日没とともに雲が湧いてきて、充分な観測はできなかったが、関東一円から多くの人が駆けつけ、関東平野の夜景と星空を楽しんだ。星好きからしてみれば、眼下一面の街灯りには複雑な心境だろうが……。それでも標高が高いためか、そこそこの星空は眺められる。由緒ある91cm望遠鏡と重厚なドームの存在をあわせると、夜景の魅力にひかれて訪れる一般の人々が星に近づくためには最適の場所といえる。
マニアでなくとも天文に興味のある人は大勢いる。観望会当日もそのような人々がたくさん参加していた。さらに多くの人に星空に興味をもってもらうために、東京に一番近くて、大型望遠鏡を備えた堂平天文台の存在意義は大きなものがある。
都幾川村地域振興課の鹿山さんによれば、天文台を維持するだけでも莫大な費用が必要になるとのこと。現在、天文台の維持は望遠鏡メーカーのサポートが受けられず、電気、機械に精通した数名と、天文台OB等の僅かな人数によるボランティアによって機器の維持、管理、更新がされているのが実情らしい。そんな天文台が再び閉鎖されることのないように、また、さらにたくさんの人々が星空に関心を持ってくれるように、堂平天文台がおおいに利用されることを願いたい。