「プロキシマ・ケンタウリ(ケンタウルス座プロキシマ星)」は、4.22光年の距離で、太陽にもっとも近い恒星として知られています。 ただ、実視等級が11等とかなり暗い上に、赤緯がマイナス62.7度で、ずっと南にある星ですから、目立つこともなく、日本から見ることもできません。
一方、ケンタウルス座アルファ星はマイナス0.3等の明るさで、南天では目立つ輝星です。 これはA,B二つの恒星の実視連星で、さらに上記のプロキシマと重力的に結びついた三重連星と考えられています。 プロキシマは100万年くらいの周期でこのアルファ星を回っていると通常は説明されています。 連星とはいえ、プロキシマはアルファ星から角度で2度、距離にして1万3000天文単位も離れたところに位置していますから、普通の実視連星のように望遠鏡の同一視野内に並んで見えるわけではありません。 中には、プロキシマは三重連星のひとつではなく、偶然にその場所にいるだけだと考えている天文学者もいます。 プロキシマ・ケンタウリの説明が長くなりましたが、宇宙望遠鏡科学研究所(Space Telescope Science Institute)のシュルツ(Schultz,A.B.)らは、このプロキシマに伴星か惑星が存在するらしいという観測結果を発表しました。
シュルツらは、1996年7月1日および10月13日に、ハッブル宇宙望遠鏡に搭載されたFOS(Faint Object Spectrograph;微光天体分光器)を使って、プロキシマ周辺の伴星の捜索をおこないました。 すると、1回目の観測でプロキシマのすぐ近くにかすかな光点を認め、2回目の観測でその光点が移動していることに気付いたのです。 これはプロキシマの惑星か伴星ではないでしょうか。 2回目の観測から、その光点はプロキシマから0.34秒離れた位置にあって、明るさは20等と見積もられました。 この光点が背景の恒星でないことも、装置の欠陥によって生じた光でないことも十分に確認したということです。
「これが惑星だとすると、その質量は少なくとも木星の10倍はあるだろう。 一方、これが褐色わい星である可能性も大きい」とシュルツは述べています。 もしこれが惑星なら、太陽系以外の惑星を、初めて直接に観測したことになります。
今後の観測でこの天体の存在をさらに確認したいところですが、上記のFOSは既に宇宙望遠鏡からはずされていますから、今後の観測は撮像分光器か赤外カメラなどハッブル宇宙望遠鏡に搭載されている別の装置か、他の衛星の観測装置、あるいは地上望遠鏡によるしかありません。 いずれにせよその結果が待たれます。 それにしても、太陽にもっとも近い恒星に惑星があるかもしれない、これは胸の躍るような話題です。
参照 | Schultz,A.B. et al., Astronomical Journal 115,p.345-350(1998). |
Walker,Gabrielle, New Scientist 157,No,2119,p.6(1998). |
1998年2月19日 国立天文台・広報普及室