ステライメージ7で彗星画像をもっときれいに
メトカーフコンポジット

『星ナビ』2013年5月号掲載記事)

パンスターズ彗星(C/2011 L4)は久しぶりの大物彗星ということで、撮影に力を入れた方も多いだろう。せっかく写した彗星なので、きれいな作品に仕上げたい。そんな時には、天体画像処理ソフトウェアのステライメージを駆使しよう。

→ 彗星基準コンポジット編

メトカーフコンポジットで彗星の姿をより明瞭に
移動する彗星の動きに合わせて重ねる

固有の運動を持つ彗星は、長時間露出で撮影すると露出中に彗星が背景の恒星に対して動いてしまう。頭部や尾の構造をより明瞭にするためには、彗星核を用いたオートガイダーでの追尾撮影や、メトカーフ法と呼ばれる彗星核の動きに合わせた追尾撮影が行われることもあった。

冷却CCDカメラやデジタルカメラでの撮影が一般的となった近年では、短時間での恒星時追尾撮影を大量に行い、それを彗星の動きに合わせて画像を動かしながらコンポジットすることで、なめらかな彗星の像を得ることができる。メトカーフ法による撮影をデジタル的に模したコンポジットであることから、メトカーフコンポジットと呼ばれる手法である。

ステライメージ7なら、このメトカーフコンポジットを簡単に行うことが可能だ。ただし彗星の天球上での移動量を正確に知る必要があるため、ステラナビゲータなどのシミュレーションソフトも必須である。

彗星の画像は恒星時追尾を行ったものを使用する。ステライメージ7で画像を開き、ひとつの画像で基準点を指定、さらにバッチ処理ですべての画像に基準点を設定する。

あとは彗星の移動量や光学系、カメラの画素ピッチなどを入力(一般的なカメラなら機種選択で自動計算)して、メトカーフコンポジットを実行すればよい。

恒星時追尾した画像を動かしながらコンポジットするので、背景の星が線状に写ることになるが、彗星はなめらかで強力な画像処理にも耐えられる階調豊かな像になる。

手順

  1. 彗星の画像をステライメージ7で読み込む(例は5月23日に撮影したパンスターズ彗星、40枚の画像を使用)。 ステライメージで彗星の画像を読み込んだ画面

  2. ステライメージの「画像情報」ダイアログ 撮影時刻が中央付近の1枚を選択し、[画像]メニューから「画像情報」ダイアログを開いて、「露出中央」の値をメモしておく。

  3. ここからはステラナビゲータを使って、彗星の位置や移動量を求める。

    まず、彗星の見え方を再現してみよう。ステラナビゲータ(例ではVer.9を使用)を起動し、[設定]メニューから「表示形式」ダイアログを開いて「座標系」を「赤道座標」にする。「設定」バーのステラナビゲータの「赤道座標」ボタンボタンをクリックして[赤道座標]を選んでもよい。

    ステラナビゲータの「検索」バー 次に「検索」バーを利用してパンスターズ彗星を探す。「パンスターズ」や「C2011L」などと入力すると候補が表示されるので「C/2011 L4」を選び、ステラナビゲータの「検索」ボタンをクリックして星図の中央に彗星を表示する。

    さらに[視野]メニューから「視野範囲」ダイアログを開き、星図の範囲を小さくして(たとえば0.7度)彗星がはっきり大きく見えるようにする。

  4. ステラナビゲータの「天体情報」パレット 中央に表示されたパンスターズ彗星をクリックすると、「天体情報」パレットが表示される。ステラナビゲータの「中央固定」ボタンをクリックして、彗星が星図中央から動かないように固定しておこう。

  5. ステラナビゲータの「視野円・写野角」ダイアログ [天体]メニューの「視野円・写野角」ダイアログでは、カメラの写野角の表示を設定できる(例の場合、焦点距離は1250mm、機種はSBIGのST-9E)。

  6. 最後に星図の日時を「露出中央」の値に設定すれば、パンスターズ彗星の見え方が再現される(下のシミュレーション例では中心を彗星からずらし、撮影例と近い表示にしている)。 撮像画像とステラナビゲータによるシミュレーション画像

  7. ステライメージでの処理を再開する前に、メトカーフコンポジットに必要な「彗星の位置と移動量」を調べておこう。

    ステラナビゲータの「天体情報」パレット 「天体情報」パレットに表示されている、赤経・赤緯(J2000)の値(位置A)をメモする。

    次に、ステラナビゲータのステラパッドや「日時」ダイアログで時刻を1時間進め、「天体情報」パレットに表示されている赤経・赤緯(J2000)の値(位置B)もメモする。

  8. 数値がわかったので、実際のメトカーフコンポジットを行おう。

    ステライメージで画像に基準点を指定 まず、コンポジットの位置を合わせるために基準点を指定する。ステライメージの「編集」バーの基準点指定ボタンをクリックして《基準点指定》ツールを選び、彗星の近くの恒星を囲むようにマウスをドラッグすると、恒星が基準点として選ばれる。

  9. ステライメージの「メトカーフコンポジット:バッチ」ダイアログ [バッチ]メニューから「メトカーフコンポジット:バッチ」ダイアログを開くと、開いている画像がリストに表示されている。

    ステライメージの「メトカーフ法」ダイアログ [メトカーフ法設定]ボタンをクリックすると「メトカーフ法」ダイアログが開く。ここで、先ほどメモした彗星の位置から計算される値を入力する。

    • 手順7で「1時間」あたりの変化を調べたので、単位時間は「1時間」を選択
    • 赤経と赤緯には、手順7で調べた位置を用いて「位置Bから位置Aを引いた値」を設定
    • 「天体の位置」は、位置Aの赤緯を設定

    ステライメージの「ピクセル角度計算」ダイアログ また[角度計算]ボタンをクリックすると「ピクセル角度計算」ダイアログが開くので、焦点距離やピクセルサイズを設定する。

  10. 設定を行ったら「メトカーフコンポジット:バッチ」ダイアログの[OK]ボタンをクリックすると、移動量と画像の1ピクセルの角度からズレを自動的に計算してコンポジットが行われ、合成画像が生成される。

  11. 完成画像 最後にレベル調整やデジタル現像などを行い、画像を調整すれば完成だ。

→ 彗星基準コンポジット編