(星ナビ2005年7月号に掲載)
Q:彗星は暗いものが多くて、なかなかコマや尾がはっきりと写りません。どうしたら尾を引いた彗星の写真になりますか?
(千葉県 Tさん)
A:追尾して長時間露出で撮影する方法もありますが、技術と機材が必要です。ステライメージのメトカーフコンポジット機能を使うと、短時間露出で撮影した何枚か彗星の画像を簡単かつ正確にコンポジットでき、淡い部分も写った彗星の姿をとらえることができます。
彗星は恒星とは違う動きをするので、恒星時ガイド撮影(注1)の長時間露光では、恒星は点像に写っても、彗星だけ流れた像になってしまいます。彗星のコマや尾の光は淡く、できれば長時間露光したいところですが、肝心の彗星が流れた像になってしまうのでは意味がありません。
ステライメージのメトカーフコンポジット機能なら、短い露出時間で連続撮像した彗星の画像を簡単にコンポジット(注2)して、より手軽に彗星の頭部や尾の淡い部分を浮かび上がらせることができます。
彗星をコンポジットする際、基準点(注3)に恒星を選んだだけでは彗星像を正確にコンポジットすることはできません。といって点像ではない彗星の核(中央集光)を基準点とすると、ぶれる可能性が高くなってしまいます。
ステライメージは、この彗星の移動量をあらかじめ入力することで、それをもとにコンポジットを行うことができます。彗星の画像処理には欠かせないこの機能を、メトカーフコンポジットといいます。では、処理の手順を見てみましょう。
- 注1「恒星時ガイド撮影」:恒星時追尾撮影ともいう。星の日周運動にあわせてカメラを動かし、星を点像にする撮影方法のこと。
- 注2「コンポジット」:対象の天体を何枚か撮影し、その画像を重ねることで、星雲や惑星の淡い濃淡を再現する方法。
- 注3「基準点」:コンポジットを行うとき、位置の基準とする恒星。基準点を定めることで、何枚もの画像を正確に重ね合わせることが可能になります。
用意する画像には、撮像日時が記録されている必要があります。冷却CCDカメラなら撮像したときのパソコンに設定されている日時が、デジタルカメラならカメラ内蔵の時計の日時が画像に記録されます。数分から数十分の誤差があっても大丈夫ですが、大幅に狂っているとうまく画像を合成できないので、撮像の前にパソコンやカメラの時計を合わせておきましょう。銀塩写真をスキャンしたものやビデオからキャプチャした画像には、撮像日時が記録されていないので、メトカーフコンポジットには使用できません。
メトカーフコンポジットの際のずれを防ぐため、天の北極方向が画像の上になるよう撮影しておくことをおすすめします。
今回題材としたのはテンペル彗星(9P/Tempel)を120秒の露出で40枚撮影した画像です。テンペル彗星は、7月4日に探査機からインパクターを撃ち込んで彗星の調査を行うディープインパクト計画で注目の彗星です。
メトカーフコンポジットは、彗星の移動量もとに、画像ごとに位置の異なる彗星を正確にコンポジットしています。まずは彗星のデータから移動量を求めます。
撮像日時をチェック
用意した画像の撮像日時を確認します。何枚か撮影した画像のうち、撮像時間が中央付近のデータをチェックするとよいでしょう。ステライメージで開き、メニューバーから「画像」−「画像情報」と選択すると画像情報ダイアログが開いて、記録されているデータを見ることができます(図1)。「■撮影情報」の中から「露出中央」の日本標準時(上段)の数値をメモします。
図1
ステライメージの画像情報ダイアログ。撮影情報だけで4項目も記録されていることがわかります。日時の上段は日本標準時(JST)、下段は世界時(UT)となっています。今回は「露出中央」の日本標準時、2005年4月30日23時20分24秒を記録しておきます。
ステラナビゲータで彗星を表示
ここでステラナビゲータの登場です。ステラナビゲータでテンペル彗星の赤緯と移動量を調べましょう。まず、日時を先ほど記録した撮影日時に合わせ、表示形式は「赤道座標」にします。メニューバーから「天体」−「彗星」と選択して彗星ダイアログを開き、テンペル彗星を選んで「OK」ボタンをクリック(図2)。これでテンペル彗星が画面に表示されます。
図2
メニューバーから「天体」−「彗星」とたどると、彗星ダイアログが表示されます。「非表示彗星」の中から「0009P テンペル」を選択して↑ボタンを押すと「表示彗星」に名前が移動します。設定が終わったら、OKボタンをクリックして「彗星」ダイアログを閉じます。
天体情報パレットで位置を確認
次に、テンペル彗星の核の部分をクリックして「天体情報パレット」を表示させ、テンペル彗星の赤経と赤緯(視位置)を記録します(図3)。作例では「赤経:12h57m57.2s 赤緯:+11°32′32″ (視位置)」のように表示されていますので、秒の桁まですべてメモしておきましょう。
引き算で移動量を算出
彗星の移動量を求めるには、天体情報パレットを開いたまま、ステラナビゲータの時間を1時間進め、再び視位置を記録します。作例での数値は「赤経:12h57m55.5s 赤緯:+11°32′08″(視位置)」。1時間前の数値をひくと、赤経方向に「-1.7s」、赤緯方向に「-24″」変化していることがわかります。 これがテンペル彗星の1時間あたりの移動量となります。
いよいよ、ステライメージVer.5でメトカーフコンポジットを行います。最初にコンポジットに使う画像、すべてを読み込んでおきましょう。
基準点の指定
適当な画像で、基準となる適度に明るい恒星を基準点として指定します。(基準点ツール)をクリックした後、基準となる恒星を囲うようにドラッグします(図4)。明るすぎたり暗すぎると基準点の精度が悪くなるので注意しましょう。
コンポジットの設定
メニューバーから「バッチ」−「コンポジット」を実行します。まずは、位置合わせのオプションを設定しましょう(図5)。「位置合わせ」にチェックを入れて、「指定した基準点」「アクティブ画像から指定」を選択します。
メトカーフの設定
コンポジット:バッチダイアログ上の「メトカーフ法」にチェックを入れ、「設定」ボタンをクリックしてメトカーフ法の詳細設定を行います(図6)。ここで、さきほどステライメージで調べた彗星のデータが登場。「単位時間」を1時間に設定して、数値を入力します。
図6
メトカーフ法ダイアログ。図は作例での数値です。撮影日時や彗星ごとに値は異なるので注意しましょう。「天体の位置」の「赤緯」には、撮像開始時の赤緯を度の単位に変換して入力します(「+11°32′08″」なら「11.535°」)。
ピクセル角度の設定
次に、望遠鏡の焦点距離などを設定します。「角度計算」ボタンをクリックして「ピクセル角度計算」ダイアログを表示し、焦点距離とカメラの種類を入力・選択(図7)。これでメトカーフ法の設定は完了。OKボタンをクリックしてダイアログを閉じます。
コンポジット開始
OKボタンでコンポジット:バッチダイアログに戻り、「合成先」が新規画像になっていること、「合成方法」が加算平均になっていることと、「範囲外の値を除外」のチェックが外れていることを確認し、OKボタンをクリックしましょう。メトカーフコンポジットが始まります。
コンポジット直後の画像では星は見えていませんが、これは「レベル調整」で簡単に修正できます(図8)。ただし、レベル調整だけだと中心部がつぶれてしまうので、デジタル現像で階調を圧縮します。冷却CCDカメラで撮像した画像には必須の処理ですが、一眼デジタルカメラでも有効な処理ですので、試してみてください。
図8
メニューバーから「階調」−「ガンマ調整/デジタル現像/色彩強調」と進み、ダイアログを開きます。まずヒストグラムでレベルを調整。「ヒストグラムを縮小」でヒストグラムの山が右側に見えてくるので、ここにレベルを合わせていきます。彗星が浮かび上がってきたら、デジタル現像でさらに調整を行って自然な画像に仕上げていきます。
できあがり!
左がコンポジット前の画像の1枚、右がコンポジット後、レベル調整した結果です。1枚の画像では見えなかった彗星のコマや尾の広がりが見えてきました。
写真データ
2005年4月30日23時21分(JST)撮影(120秒露出×40枚)
撮影/門田健一 撮影地/埼玉県上尾市
口径25cmF5反射+冷却CCD
ダーク/フラット補正およびホット/クールピクセル除去を施してあります。
作例は、人類史上初のプロジェクト「ディープインパクト」で、インパクターが撃ち込まれるテンペル彗星の4月30日の姿です。7月4日のインパクト直後は、世界中の望遠鏡がこの彗星の変化に注目するでしょう。もしかしたら大増光が見られるかもしれません。ぜひこのテクニックを活用して、彗星の変化を捉えてみましょう。 テンペル彗星の見つけ方は、ステラナビゲータVer.7で再現をご覧下さい。
※ディープインパクト計画特集ページもご覧下さい。