- 誠文堂新光社
- A5判、159ページ
- 2009年8月
- ISBN 978-4-416-20919-6
- 価格 2,310円
今はほとんど死語となっているらしい「フレッシュマン」だった時代、評者は3年先輩の卒業観測を見習い助手として1年間お手伝いし、10cm屈折望遠鏡(F12)を使った太陽黒点観測を行った。このときの経験は、光学知識から観測技術、写真撮影に至るまでの練磨に本当にプラスになった。
当時、対物フィルターは存在していたのかもしれないが、直視法ではサン・ダイアゴナルが万能で、それに接眼フィルターをつけて恐る恐る覗いていた。3月の黄砂濃い日没時、太陽を接眼フィルター無しで直接覗くという人類未踏の無謀をやったのも、この望遠鏡だ。しっかりと黒点が見えた。残念ながらというか幸いにというか、その先輩が言われた「そんな乱暴はやめにして、今後はともかく大学として連綿と残るデータを後輩に残していくべきだ」というありがたいご託宣によって、変光星研究会という学生グループを立ち上げ、それによって村山定男先生にお目をかけてもいただけた。評者の天文観測入門が、ほかならぬ太陽観測だったのである。
本書は13人のベテラン太陽研究者の共同執筆で、評者の後輩を含め知り合いも多い。また60年間も太陽スケッチを続けておられる板橋伸太郎さんの、40枚近い貴重な記録も掲載されており、それだけでも目を見張る。一方、画才のない評者にとっては連日暗室でミニコピー・フィルムを D11現像液で処理していたのが思い出の一場面であるが、いまやそんな昔話は通じないようで、本書を読む限り、デジタルカメラなどの近代兵器を使うことができるみなさんを羨ましく思ってしまう。天体観測はぜひ、夜行性動物ではない人類に適した生活ができる太陽観測から始めるべきである。その意味で本書第8章「天文教育と太陽観測」は、どなたにも読んでいただきたい部分だ。もちろん、他の章もお読みいただき、太陽研究の幅広さを実感していただきたい。
評者にとっては、第3章「大気光象」が大変面白かった。過日評者が利用する最寄駅に夕方降り立ったとき、駅前にできていた巨大虹(主虹も副虹もアレキサンダーの暗帯も全て)が見え、それにおそらく何百人のにわかカメラ(ウー)マンが携帯を向けていた。虹にこんなに現代人は感動するのだ!と思ったものである。