- 筑摩書房
- 新書判、183ページ
- ISBN 978-4-480-68815-6
- 価格 998円
2012年に本格運用を開始する国際天文プロジェクトの本邦初公開ともいえる紹介書である。内容が詳細であると同時に、筋金入りの「電波少年」だったと自認する著者の語り口が、正真正銘のエンジニアらしい、理学者っぽさが感じられず、たいへん優しくわかりやすいので、理学者の語り口にやや辟易している評者は楽しんで一気に読むことができた。
本書の冒頭に掲載されたアカタマ高原の衛星画像からは、なぜそこが電波望遠鏡の設置場所に選定されたのかが一目瞭然だ。標高5000mもあるのに、広大な高原に雪が見当たらない。上昇気流で東西の崖に雪が降り尽くしてしまい、稜線というか平原上空の大気が乾きに乾き切っているためだ。また、高山病にも悩まされるほど薄い大気は、いかにも電波の吸収やゆらぎが少なそうだ。まさに巨大電波天文台にふさわしい場所であるのが理解できる。
この安定した大気条件も手伝って、ALMAは0.01秒角という電波望遠鏡としては驚異的な分解能や、高い感度と周波数分析能力をほこる。その結果、様々な天体の姿、例えば原始銀河や系外惑星、彗星核に含まれる原始太陽系始原物質などが明らかになるという。
また、評者がもっとも関心をひかれたのは、サント・ドミンゴ教会壁面に描かれた天の川周辺の絵である。銀河のあちこちに見ることができる暗黒星雲を、黒いリャマやキツネ、ヘビなどに見たてているという。みなみじゅうじ座の有名な暗黒星雲「石炭袋」はウズラだという。この独特なインカ民族の銀河観は、日本では本書のみで知ることができる。