月刊「星ナビ」で2006年6月から連載の始まったCOSMOTOGRAPHY
GaBany氏による天体写真は、すばらしい解像感と色彩で
私たちに宇宙の奥行きと美しさを実感させてくれる
これほどの作品は、どのようにして生まれるのか?
R Jay GaBany インタビュー
R Jay GaBany
1954年生まれ。カリフォルニア州サンノゼ在住。ビジネス旅行者用の航空・レンタカー・ホテルのオンライン予約システムの開発を行っている。
すばらしい天体写真たちの誕生物語
GaBany氏の天体写真は、解像度、星像の見事さ、処理の丁寧さ、作品としての美しさ、どれをとってもすばらしいとしかいいようがない。これらの作品は、いったいどのようにして生まれてくるのだろう。作品づくりの根底には、氏の飽くなき探究心と好奇心、機材へのこだわり、そして宇宙への確かな想いがあった。
― どのような環境で撮影をしているのですか?
ニューメキシコ州の山地に自分の天文台を建てて、インターネットで一切をコントロールできるようにしています。それとは別に、オーストラリア・メルボルンの東50マイルにある遠隔操作望遠鏡をレンタルすることもあります。そこでは南半球の天体を撮影しています。
― 天体写真歴を教えてください
1960年代の宇宙計画、マーキュリー・ジェミニ・アポロへの関心から、天上のことを理解したい、そしてやがて撮影したいと思うようになりました。初めての望遠鏡は、両親からのプレゼント(日本製の2.5インチ屈折望遠鏡と経緯台)でした。当時12歳だった私にとって、それはまさに星や惑星へのロケット船。ニール・アームストロングとバズ・オルドリンが月面上を歩いているときに、裏庭からその望遠鏡で月を観察していたことを覚えています。三脚を改造し、安いフィルム巻きカメラをいじってシャッターが開きっぱなしになるようにして、1969年のベネット彗星接近の際に初めての長時間露光撮影を行いました。
結婚し、2人の子どもが生まれ、仕事もあったので、デジカメがフィルムに取って代わろうとしている時代は天体写真の観客として過ごしました。ところがある晩のこと、アマチュア天体写真家のデジタル画像を話題にしたウェブサイトを見て衝撃を受けました。私の意欲に再び火がつき、数ヶ月後には、再び望遠鏡を通して写真を撮り始めていました。
― どんな機材を使っているのですか?
ニューメキシコ州の天文台では、RCOS 20インチのリッチークレチアン望遠鏡をParamount ME架台の上に載せています。撮影にはSBIGの11メガピクセルSTL-11000カメラを、同社の波面補償光学装置AO-Lと組み合わせて使っています。
天文台にはサーバーがあり、常時稼働しインターネットに接続しています。各機材は観測所のLANにつながっているので、すべてはローカルのコンピューターから操作できます。インターネットに接続できる場所であれば、Microsoft Remote Desktopのようなアプリケーションを使って観測所のサーバーにアクセスすることにより、ありとあらゆるものを操作できます。架台の制御にはBisque SoftwareのTheSkyを使っています。また、同社のCCDソフトでカメラをコントロールしています。
画像処理の際は観測所サーバーは使いません。カメラが自動的にRawデータをハードドライブのフォルダに蓄積するので、自宅のPCにダウンロードします。画像処理は、事実上Photoshopだけで行っています。もっとも、CCDStack、Maxim DL、Astro Artsといったほかの画像処理ソフトも使ってみたところ、とても便利でした。
― 作品づくりのスタイルは?
画像処理の上で4つの基本要素「コントラスト」「明瞭さ」「深さ」「色彩」を重視しています。
わずかな「コントラスト」を強調することで、銀河や星雲中の隠された構造を浮かび上がらせる方法を見つけ出し、時として予期せぬ、驚くべき形状を明かすことができるようになりました。
「明瞭さ」を高めたい場合は、「シャープさ」と混同してはいけません。例えば、新聞の写真はシャープでも高解像度でもありませんが、明瞭であるおかげで、大抵の読者は何が描かれているか理解できるのです。
「深さ」は、画像のために集められたデータの量と関係しています。合成画像のS/N比が高いほど、画像はより深くなります。高いS/N比を得る一番の方法は、露出時間をとても長くすることです。平均して10時間、たいていはそれ以上の露出を心がけています。
「色彩」は膨大な量の情報を含んでいます。色は最後に染めるだけ、というとらえ方しかされてないのがほとんどですが、私は色彩を活かすことで恒星像を小さく抑えられることを発見しましたし、輝度データの中に隠された構造をカラーデータが浮かび上がらせてくれることもあります。ですから、私はすべての画像をビニングなしのカラーデータを元に処理しています。ノイズを発生させることなく色彩を鮮明にする方法を用いることで、ビニングなしのカラーデータであったとしても、単なる着色に必要となる以上の色彩を得ることができるのです。
私は、天体写真というのは芸術的な自己表現の1つの形だと信じているので、インスピレーションを得るために古典的な風景画家に興味を示すことがよくあります。また、アメリカのAdam Block氏、Robert Gendler氏、ヨーロッパのJohannes Schedler氏、そして日本では、吉田隆行氏……といった世界的な天体写真家と知り合うことができ、彼らの作品にも影響を受けました。
― 高い水準の作品を得るために苦労している点は?
最高の画像を得るためには充分な画像処理が欠かせません。写真を撮影したあとで画像処理に費やす時間は、1枚あたり100時間以上です。普段だと何十種類か画像を作ってから、満足できる1枚を選んでいます。それぞれの画像にこれだけの労力を費やすのは容易でなく、私が決して妥協を許さない完全主義者だからこそ完成できた画像もあると思います。
― 近い将来の挑戦について教えてください
光栄にも、カナリア諸島宇宙物理機関に所属するプロの天文学者のチームと一緒に仕事をすることになりました。多くの研究用観測装置と違って、ニューメキシコ州にある私の望遠鏡は簡単に準備できるので、比較的高い解像度で超長時間撮影を行い、銀河の成長と進化の手がかりをつかむ手助けができるのです。
天文学者のチームは大きな観測装置が空くのを待つことなく深いデータを入手できますし、私はおもしろい画像を得ることができます。楽しくてやりがいのある経験でした。うまくいけば、彼らが発表する論文の中に、私の作品も載ることでしょう。
※星ナビ2007年8月号に掲載された記事より抜粋、一部編集しました。