第28回 マックノート大彗星を大追跡 後編
(星ナビ2007年6月号に掲載)
メガスター開発者の大平です。メガスターを使い色々な場で活動していると、本当に面白い出会いや発見、考えさせられることがたくさんあります。ここではそんなメガスターの活動にまつわる様々なできごとや思いをお伝えしてゆきたいと思います。世紀の大彗星となったマックノート彗星をこの目で見届けるのはプラネタリウムクリエイターとしての使命! というわけで、オーストラリアのパースへ飛びました。
いよいよマックノート彗星と対面
パースでレンタカーを借り、ホテルを見つけてチェックインした僕は、すぐ計画を練ることにした。何しろ思いついたまま飛び出してきたのでどこで見るとか何も考えていない。まあ彗星は南西なので、パース市街の光害を避けるなら南方に逃げたほうがいいと考え、とりあえず初日は国道沿いに南方に車を走らせたのだった。
しばらく走るとパースの街からもだいぶ離れ、四方が開けた小高い丘のような場所を見つけた。ここで夜を待つ。天候は少し雲があるが、だいたい晴れ。やがて日が沈み、星が現れてきた。地平線付近をくまなく探す。それらしいものがなかなか見つからない。やはり急減光してしまったのだろうか? だいぶ暗くなってきた午後9時頃だったろうか。双眼鏡の視野に、薄い尾を引いたそれらしきものが入った。間違いなかった。マックノート彗星との初対面である。
うーむ、頭部は1等級あるかないか。正直言えば写真で想像した姿からするとだいぶ控えめな印象。こんなものだろうか? しかし尾ははっきり見え、日がすっかり落ちると10度くらいは見えている。なんの、充分な大彗星である。
しかし同時に気づいたのは、適切な観測地のように見えたこの場所が、実は大きな工業地帯の一角にあって、工場街のナトリウムランプの灯りがかなり明るいということだった。もしこの灯りがなかったら、もっとはるかによく見えただろうに。しかし初日だし、とにかく確認できたのでよしとする。
プラネタリウムクリエイターとして
その晩、マックノート彗星情報を教えてくださった、明石市立天文科学館の井上氏から再びメールが来ていた。具合はどうか、と様子を尋ねるともに、ここで見るといいよ、という観測地のアドバイスまであった。それによると北がいいらしい。毎度毎度、感謝である。
そこで翌日は、北方に車を走らせた。今度は欲張って200キロほども離れた場所である。これなら光害がずっと少ないだろう。しかしこの日は雲が多かった。彗星の見え方は、確かに昨晩よりだいぶ良かったのだが、雲の合間になってしまったこと、そして月がだいぶ明るくなってきたことが、惜しいところだろうか。まだまだ残念だった点は色々あるのだが、無計画に飛び出してきたわりには、大彗星らしい姿も見えたし、まずまずといっていいだろう。
仕事がたてこんでいる中での突然の遠征にはたくさんのスケジュール調整が必要で、多くの人に迷惑もかけてしまった。けれど最近思う。プラネタリウムづくりを生業とする人間として、星空や宇宙の魅力を伝える使命を負った僕にとって、こういう素晴らしい天文現象をこの目で見ることは、何より大切なのだと。
マックノート彗星については、井上氏からのメールが来るまで全くノーマークであった。今後は、研究開発や公演も大切だが、もっともっと、本物を見ることにも力を注いでいきたい、そんなふうに感じたオーストラリア遠征なのだった。