野辺山電波ヘリオグラフ、太陽表面での超高速伝播現象を捉える
【2002年9月26日 国立天文台・天文ニュース(583)】
太陽はしばしばフレアと呼ばれる爆発現象を起こすことが知られています。フレアの正体は、これまでの研究結果から、太陽表面に現れた磁場がエネルギー源となっていることがわかっています。フレアによって、太陽をとりまくコロナとよばれる希薄なガスの一部が、数百万度から一気に数千万度あるいは数億度に加熱されます。また爆発のエネルギーは、電子や陽子といった粒子を光速近くまで加速するのに使われ、場合によっては地球での磁気嵐などの現象を引き起こすこともあります。
前者のコロナの加熱については、これまでの宇宙科学研究所のX線太陽観測衛星「ようこう」によって詳細がわかってきましたが、後者の粒子加速についてはまだ十分に解明されてはいませんでした。フレアに伴う間接的な粒子加速の証拠は数々ありましたが、これまでは直接確かめることができなかったのです。
国立天文台野辺山電波天文台にある「電波ヘリオグラフ」が、世界で初めて、このフレアに伴う粒子加速の現場を捉えました。この装置は電波望遠鏡を84台並べた太陽の電波写真を撮影する装置で、1秒間に10枚もの高い時間分解能を持っています。フレアは短時間に極めて激しく変動する現象ですので、その研究には電波ヘリオグラフは欠かせません。
問題のフレアは1999年8月28日に太陽面の中心よりもやや南よりの場所で発生しました。それほど大規模ではなかったのですが、最大の特徴は空間的に比較的大きく、しかも長細い構造がとらえられました。そのフレアの詳細を解析すると、長細い構造のいっぽうの端からもう片方の端に向かって、非常に高速で伝わる現象が捉えられていたのです。作成したムービーでは、数フレームにわたって伝搬する現象がよくわかります。伝わった距離は45,000キロメートル(地球の半径は6,000キロメートル)もあり、これが0.5秒という短時間に起きていたのです。まばたきを2回するぐらいの時間です。実際、速度を算出してみると秒速90,000キロメートル、すなわち光の速度の約3分の1になります。相対性理論によると、光の速度より速くものは進めませんから、これは究極の速度まであと一歩というスピードなのです。
今回捉えられた伝搬現象は、電波を出していることから電子であると思われます。その意味では、フレアに伴って実際に「電子が本当に加速されている」ことを、高速マイクロ波観測によって直接、証明したと言えるでしょう。
さらに、今回の発見で特に重要な点は、電子が加速される位置が特定できたことも挙げられます。フレアのどこでどのように粒子が加速されているのか、いままではわからなかったからです。このフレアでは、ふたつの磁力線が相互作用する場所が、伝播現象の出発点であることがわかりました。これは加速メカニズムの解明のためには、非常に重要なことを示唆しています。磁力線がループを描いた構造の全体で加速する、という説をとなえる研究者もいますが、今回のフレアに関する限り、この説があてはまらないことは明らかになったのです。
今回の観測で、太陽系で起こる最大規模の爆発現象:太陽フレアの総合的な理解に重要な一歩を記すものとなったことは間違いないでしょう。
この内容は、2002年9月26日に国立天文台 三鷹キャンパスにおいて記者発表されました。
注:この天文ニュースは、国立天文台 野辺山太陽電波の横山央明(よこやまたかあき)さんにいただいた文章を編集し作成しました。