20日にチェコ地方でこれまでで最大級のオーロラ発生
【2003年11月29日 アストロアーツ】
11月20日に東欧チェコ地方で過去最大級のオーロラが発生した。阿部新助さん(チェコ共和国天文学研究所・海外特別研究員)にレポートをお送りいただいたので、以下に写真とともに紹介しよう(画像はいずれもクリックで拡大)。
(阿部さんからのレポート)
2003年11月20日正午頃に宇宙天気予報メーリングリストから磁気嵐発生のアナウンスが流れた。先月からの活発な太陽活動で頻繁に磁気嵐が発生していたこともあり、あまり注目はしなかったが、スウェーデン・キルナ在住の日本人・オーロラ研究者からも低緯度オーロラ発生注意報のメールが届き、久方振りのメールをキルナと交わしながら、インターネットを通して得られるリアルタイム宇宙天気情報に注目していた。外は快晴、惑星間空間磁場もほぼ真南を向き条件は揃っている。
星星が輝き始めた17時40分頃、技官のアレスが「オーロラが見えるよ」と小走りにやってきた。アレスは寝ずの夜空の番人なので、今日の昼飯時に突発天体現象があったら何時でも構わないから電話をくれと小生の携帯番号を教えたばかりであった。オフィスから屋上に出ると、北北東の空が赤く染まっていた。目が暗闇に慣れるとカーテン状の帯がサーチライトのように天高く伸びているのも見える。その光芒は次第に大きくなってきたので、写真撮影の準備を始めた。Pentax MZ-S一眼レフに焦点距離24mm(F2.0)の広角レンズを装着、フジカラーSuperia800フィルムを装填して三脚を担いで屋上に戻ると、当初水平線近くに見えていた赤いオーロラは次第に高度を上げていき、赤いオーロラの下に緑のオーロラが出現。刻々と姿を変えるダンシング・オーロラが始まった。
赤いオーロラは波長6300Åで輝く酸素原子(禁制遷移)、緑のオーロラは5577Åで輝く酸素原子(禁制遷移)、6300酸素原子の方が発光寿命が長いため、 5577酸素原始の発光領域よりも上空のより大気密度が小さな領域でしか輝くことができない。通常低緯度では、高高度発光の6300オーロラしか見えないのだが、オーロラ・オーバル(オーロラのリング)が大きく広がったお陰で緑の発光も見え始めたのだ。18時過ぎから始まったオーロラの激しいダンスはおよそ15分ほど続き、北西のプラハの町明かりの方角へ消えていった。
しばらくするとやはり北東の空に鋭いビーム状の赤いオーロラが出現したり、殆ど真東から天頂を通過して真西へ長く伸びる赤や緑のオーロラが出現。まるで天の川のように天空を貫いている。荷電粒子は磁場に沿って運動するので、チェコの空に横たわる磁力線の向きがよく分かった。
その後、オーロラ発生の情報をインターネットで報告しつつ夜空を注目し続けた。同様のオーロラ・バーストは19時過ぎと 22時過ぎに発生。バースト観測も3回目になると、「あっ来るな」というのが直感的に分かるようになった。特に22時過ぎからの15分間は、真紅のオーロラが山火事のように北北東の空に現れて、次第にカーテンを広げながらプラハの方面へ移動していく素晴らしいものだった。トップの写真は、その時にデジカメで撮影したもので、北北東-北-北北西の空を駆け抜けたダンシング・オーロラを1分間隔で撮ったものである。一眼レフを使ったフィルム写真撮影と平行して、小生の小型デジタル・カメラ(Olympus Camedia X-2)も使ってみた。露出時間が8秒までしかかけられなかったが、見事なオーロラが撮影できた。こういう時は、撮影結果がすぐに見れるデジカメは大変便利である。フィルム撮影写真の方が画質がいいので、こちらの現像結果も楽しみだ。
惑星間空間磁場の向きは次第に北を向き始め、再び地球は己の磁力線でシールドを張り太陽粒子の進入を拒み始めた。そして23時頃には、オーロラ活動は完全に終息した。しし座流星群の観測は悪天で阻まれたが、同僚の流星研究者らと時期外れの素晴らしいオーロラを楽しむことができた。北緯50度のチェコでは、11年周期で活発になる太陽活動極大期頃に何度か発生するそうだが、これほど見事なオーロラを観測した経験はないとのことである。チェコの空からの突然の素晴らしい贈り物は、プラハの美しい町並み以上の感動を小生に与えてくれた。