小惑星(1089) Tamaは連小惑星だった
【2004年1月16日 国立天文台・天文ニュース(694)】
主に火星と木星の軌道の間にある小天体を小惑星と呼んでいます。小惑星が集中している領域を小惑星帯と呼び、ここでは稀に小惑星同士の衝突が起きるとされています。衝突によって、大きな小惑星が破壊されたりしますが、このとき小さな破片が大きな小惑星の衛星となったり、あるいは同じようなサイズの小惑星同士が連星のような、重力的に結びついて、連小惑星(バイナリー小惑星)になったりすることがあるといわれています。最近の観測技術の進歩により、衛星を持つ小惑星や、連小惑星が続々と発見されてきています。いままで発見された連小惑星系や衛星を持つ小惑星は、全部で30を越えています。
このような系では、お互いの距離と周期とが観測からわかれば、天体力学的な手法によって、小惑星の質量の和がわかります。小惑星は惑星に比べて極めて小さいため、その質量を推定する方法が他にほとんどありませんから、このような衛星系あるいは連小惑星系はたいへん貴重です。そんな貴重な例に、日本とゆかりの深い小惑星が仲間入りしました。1927年(昭和2年)に当時の東京帝国大学東京天文台(東京都三鷹市)において及川奥郎(おいかわおくろう)が口径20センチメートル、ブラッシャー天体写真儀で発見した小惑星(1089) Tama(=多摩)です。小惑星(1088) Mitaka(=三鷹)とともに、日本で最初に発見された小惑星です。
ジュネーブ天文台のベーレンド(R. Behrend)らのグループが、昨年の12月24日から1月5日にわたって5夜の観測データを解析したところ、この小惑星(1089) Tamaに、連小惑星特有の食現象が見つかりました。食現象は、相手の小惑星と重なってしまうか、あるいは背後に隠れてしまうために、明るさが急変する現象です。連続的に明るさを測定すると、二つの小惑星は 0.6852±0.0002日で回りあっていて、相互の食現象によって0.08 日間だけ、約 0.5等級暗くなっていました。このデータから、小惑星(1089) Tamaは大きい方の小惑星に対して、小さい方は直径が7割ほどとされています。また、お互いの距離はわずか30キロメートルと推定されました。この距離は地上観測では分離できないほどのもので、今後ハッブル宇宙望遠鏡などで観測が行われれば、さらに詳しいデータが得られるに違いありません。
小惑星(1089) Tamaは現在、ふたご座にあって、地球から約1億5300万キロメートルほどの距離にあり、13等星と肉眼では見ることができない明るさで輝いています。