すばる望遠鏡、NASAと共同で土星の衛星タイタンのジェット気流を観測
【2004年6月30日 国立天文台 アストロ・トピックス(23)】
2003年冬、雪景色のマウナケア山頂で、すばる望遠鏡にNASAの装置が取りつけられ、土星の衛星タイタンの激しいジェット気流が観測されました。この観測は、NASA等が打ち上げた「カッシーニ」土星探査ミッションから、探査機「ホイヘンス」が分離して、2005年1月にタイタンの濃い大気中に突入することと連携して行われたものです。
HIPWAC(Heterodyne Instrument for Planetary Wind and Composition)と名づけられたNASAの装置は、惑星の気流や大気組成を観測するためのヘテロダイン受信機です。すばる望遠鏡の大口径を生かしてHIPWACで行った観測を、これまで行ってきた観測結果と合わせて考えると、タイタンの上層大気(成層圏)には、高緯度で時速756kmの風、つまりジェット気流が存在するという説を裏づけるものとなりました。すばる望遠鏡による観測では、ジェット気流はタイタンの自転と同じ方向に吹いており、赤道付近の成層圏では気流は高緯度よりも穏やかである(時速約425km)ことが明らかとなりました。これはジェット気流モデルとよく合う結果です。HIPWACは、メリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターで設計・製作されました。すばる望遠鏡は、日本の国立天文台によって運営されています。
タイタンの気流の方向を地球から観測するのは極めて困難です。これは、タイタンの上層大気中に炭化水素(水素と炭素からなる分子)があるため、大気がオレンジ色に霞んでしまって動きを示す特徴がとらえられないためです。
この観測は、もともとNASA、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)、イタリア宇宙機関(ASI)の国際事業であるカッシーニ土星探査ミッションのために進められました。このミッションは、大型ロボット探査機を用いて、土星とその31個の衛星を探査するもので、今年7月からいよいよ土星周辺で活動を展開する予定です。ESAが製作したホイヘンスは、探査機カッシーニに取りつけられていますが、12月には切り離されて22日間の旅の後、タイタンの大気に突入します。カリフォルニア州パサデナのNASAジェット推進研究所がカッシーニ土星探査ミッション全体を統括しています。
すばる望遠鏡は、HIPWACに大口径による集光力を提供しました。すばるの直径8.2mの主鏡は、一枚鏡としては現在定常運用されている望遠鏡中で最大のものです。HIPWACは、光を異なる周波数にひじょうに細かく分けて高い分光分解能を達成しているため、より多くの光を集めれば、より高い性能が発揮できるのです。この研究には、チャレンジャー宇宙科学教育センター、メリーランド大学、ハワイ大学、ドイツのケルン大学などの研究機関も参加しています。
注:ヘテロダイン受信機とは、ラジオやテレビと同様の方法で、波の性質を損なわずに光を受信する装置で、波としての性質を利用して周波数を極めて正確に測定できます。