3月30日深夜のアンタレス食
【2005年3月16日 国立天文台 アストロ・トピックス(87)】
3月30日の深夜(日付としては31日)、さそり座の1等星アンタレスが月の向こう側に隠される「アンタレス食」という現象が起こります。アンタレス食が観察できるのは、1991年以来実に14年ぶり、また、日本で1等星の食が条件よく見られる次の機会は、2016年のアルデバラン食までありません。
月は星々の間を移動していきますが、その月の通り道にちょうど星があると、その星は月の向こう側に隠されることになります。この現象を「食」(あるいは「星食」「掩蔽(えんぺい)」)と呼びます。月の運動は複雑なために、その通り道はそのたびごとに微妙に違ってきます。毎月のように同じ星が月に隠されることがないのは、このためです。暗い星まで考えると、このような食は頻繁に起こっていますが、1等星に限ると、月が隠す可能性のあるのはしし座のレグルス、おとめ座のスピカ、おうし座のアルデバラン、そして今回食が起こるさそり座のアンタレスの4つだけで、ひじょうに珍しい現象となります。
こうした明るい恒星の場合、肉眼でも食が確認できることが多く、古来から「月掩星」などという表現で記録に残されてきました。食でも、月が惑星をかくす場合はとくに「惑星食」といい、さらに惑星によって「水星食」「金星食」「火星食」などと区別します。星座をなしている恒星が隠されるときには、その恒星の名前から「アンタレス食」「アルデバラン食」「レグルス食」「スピカ食」などと呼んでいます。
今回のアンタレス食は、31日の0時台から1時台にかけて、沖縄の南西部を除く全国で観察できます。月齢は20.3の満月過ぎの月の明るい縁にアンタレスが隠され、逆の暗い縁から現れます。隠される瞬間を「潜入」、出てくる瞬間を「出現」と呼びます。月が星に近づいていく様子や、出現後に月が星から離れていく様子を観察すると、星空に対して月が意外に早く動いていることが実感できるはずです。ちなみに今回の食は、沖縄県那覇市あたりから南西の地域では見ることができません。しかし、那覇市と知念村を結んだあたりの地域では、月の縁がアンタレスぎりぎりに接近する「接食」という現象を観察することができます。月の縁にはクレーターや山などの地形による凹凸がありますので、場所によってはアンタレスが何回か明滅するのを見ることができるかもしれません。
ただ、食が起こる時刻が月の出から間もないため、月がまだ南東の空の低い位置にあります。なるべく月の見える方角に高い建物や山などがない、地平線近くまで見通せる場所で観察してほしいものです。空の状況によっては、アンタレスが1等星といっても肉眼で見るのは難しく、観察には双眼鏡か望遠鏡が必要になるかもしれません。
いずれにしろ、アンタレス食は、今年の大きな天体ショーのひとつであることは間違いありません。そこで国立天文台では、このアンタレス食をターゲットとして、皆さんに観測する面白さや難しさを知ってもらおうと、「アンタレス食を計ろう」キャンペーンを行うことにしました。アンタレスが月に隠された潜入の時刻と出現の時刻を計って、観察地域の情報と共にインターネット上の国立天文台の報告ページで報告してください。携帯電話からの参加もお待ちしています。
深夜、遅い時刻に起こる現象ですが、春休み中でもありますので、ぜひお子さんも一緒に楽しんでみてください。今回のキャンペーンでは、あまり精度にこだわらず、実際に自分で測定をするときの難しさや楽しさを体験し、天文学者の気分を味わってみてください。