西はりま天文台「なゆた望遠鏡」が、来年明るくなる彗星をキャッチ!
【2005年12月9日 国立天文台 アストロ・トピックス(168)】
来年に起きる天文現象の中でも、天文ファンが期待しているのがシュワスマン・ワハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann 3、以下 SW3)の地球への接近です。彗星としては、それほど大きくないのですが、地球に近づくため、来年のゴールデン・ウィーク頃には肉眼彗星となるのでは、と期待されているからです。
今回の回帰としては日本で初めて、兵庫県立西はりま天文台が、地球に近づきつつある彗星の姿を撮影することに成功しました。同天文台の森淳(もりあつし)さんらによって2005年11月1.81日(世界時)、日本国内最大の口径2.0メートル反射望遠鏡「なゆた望遠鏡」で、このSW3彗星の元気な姿が捉えられたのです。
撮影時におけるSW3は、地球からおよそ3天文単位(1天文単位とは地球と太陽の平均距離で約1億5千万キロメートル)の距離にあり、明るさは約19等級でした。まだアマチュア天文家が観測できる明るさではありませんが、さすがに口径が大きな望遠鏡のこと、彗星はしっかりと輝いているのがわかります。
実はSW3彗星は、かなり癖のある周期彗星として知られています。1930年に発見された後、1979年まで行方不明になっていただけでなく、1995年の出現時には分裂を起こして、急激に明るくなりました。2001年の回帰時には、本体だけでなく、二つの破片も回帰したのが観測されています。いずれにしろ、どんな挙動を起こすかわからない彗星ですから、今回も彗星そのものが消失してしまっていないか、と心配する向きもあったのです。今回のなゆた望遠鏡の観測で、そのような心配が無用であったことが示され、そして来年彗星が明るくなることに期待がふくらんだといえるでしょう。
SW3彗星は2006年5月12日には地球から0.08天文単位(約1200万キロメートル; 地球-月間の約30倍)の距離まで接近します。月明かりを考慮すると4月末から5月にかけてのゴールデンウィークが見頃になるでしょう。明るくなれば1996年の百武彗星のように肉眼でも彗星の動きが分かるかもしれません。今からとても楽しみです。
森さんらは、今後もなゆた望遠鏡の可視光分光器を使ってSW3の分光観測を行う予定です。森さんを中心に進めている「西はりま天文台彗星スペクトルセンター」もまもなく本格始動します。また、国立天文台・すばる望遠鏡でも観測が予定されています。いずれも天文学的な成果が期待されるところです。
国立天文台 アストロ・トピックス 注:このアストロトピックスは、西はりま天文台の森淳さんからいただいた原稿を元に作成しました。
肉眼彗星となる73P/シュワスマン・ワハマン彗星に注目 :この彗星は、5.4年で太陽をめぐる短周期彗星だが、ここのところ突然増光したり、核が分裂したりとなにかと話題の多い注目の彗星となっている。2006年5月12日深夜から13日にかけて、地球に大接近し、3等級の肉眼彗星となって見えるのではないかと期待が高まっている。(「アストロガイド 星空年鑑2006」(2006年の星空を写真とイラストで詳細に解説)より)
彗星 :彗星は、周期彗星として何度も太陽への接近を繰り返すものと、1度だけ太陽に近づいてそのまま太陽系のかなたに消えていくものがある。彗星がまき散らしたダストは流星群の素になる。このとき原因となる彗星を母彗星という。さらに彗星は、オールト雲という太陽系のはるか外縁を取り巻く彗星の故郷から飛来するとされ、太陽系生成期の物質の状態を保存していると考えられるので、「太陽系の生きた化石」として、太陽系進化を研究する重要な手がかりになる。(「最新デジタル宇宙大百科」より)