赤外線天文衛星「あかり」が観測に成功、画像を初公開
【2006年5月22日 JAXA プレスリリース2006 / 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース】
今年2月22日に鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F)が本格的な観測を開始し、初めて画像が公開された。「あかり」の初観測画像は、従来の赤外線観測衛星をはるかにしのぐ高い解像度で、宇宙の歴史の解明にせまる大きな成果が得られることが期待される。
日本初の赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F)は今年2月22日の打ち上げの後、4月13日に望遠鏡開口部の蓋開けが行われ、その後は順調に観測装置全系への電源投入と機能・性能確認、望遠鏡の焦点調整、姿勢制御系の調整等が進められてきた。望遠鏡と2つの赤外線観測装置も、軌道上で期待通りの性能が発揮されていることが確認され、本格的な観測を開始した。試験観測で取得された画像も、高解像度、高感度を誇るものとなっている。
「あかり」には、近赤外線から遠赤外線までの幅広い波長範囲で全天の観測を行うために、2つの観測機器、遠赤外線サーベイヤ(FIS)と近・中間赤外線カメラ(IRC)が搭載されている。公開された画像は、試験観測で取得された宇宙の赤外線画像の一部。従来の赤外線装置をはるかにしのぐ解像度と感度での撮影に成功していることがわかる。
公開された画像のうちの1枚は、反射星雲IC 4954付近の赤外線画像(上の画像(左)「あかり」による画像、(右)赤外線天文衛星IRASによる画像)だ。観測波長はそれぞれ90μm(マイクロメートル)と9μm。差しわたし十数光年のこの領域は太陽系から約6千光年の距離にあり、数百万年前から星の形成が続いている。赤外線画像では、ガスや塵の雲に囲まれているために可視光では見えない生まれたばかりの星や、星の原料であるガス雲の分布が明るく浮き出て見える。右側のIRASによる画像との違いは明確で、「あかり」がこれまでの赤外線をしのぐ高い性能によって、星誕生の現場を正確に捉えているのがわかる。
また、IRCで捉えたM81の赤外線画像(下の画像)では、観測した波長は、3, 4, 7, 11, 15, 24μmである。M81は、我々の銀河系からおよそ1200万光年離れたところにある渦巻き銀河だ。波長3および4μmの画像では、塵に遮られることなくM81内の星の分布がきれいに見えている。波長7と11μmでは、M81内の星間ガスに含まれる有機物からの赤外線を捉えていると考えられる。波長15と24μmの画像は、若い星により暖められた星間空間の塵の分布を示し、渦巻きの腕に沿って、星が作られる領域が分布していることがわかる。
今回の画像の公開は、今後継続される「あかり」の観測によって赤外線による新しい宇宙の地図が作成され、銀河や星・惑星系の起源と進化の研究に大きな成果が得られることを期待させてくれるものとなった。
なお、遠赤外線サーベイヤは、情報通信研究機構からの検出器提供等を受け、名古屋大学、JAXA、東京大学、国立天文台等により開発された。また近・中間赤外線カメラは、東京大学、JAXA等による開発となっている。「あかり」の運用とデータ処理は、上記国内研究機関と、欧州宇宙機関(ESA)、英国Imperial College London、University of Sussex、Open University、オランダUniversity of Groningen/SRON、および、韓国Seoul National Universityとの国際協力により行われている。
赤外線天文衛星「あかり」(ASTRO-F)
赤外線による全天サーベイを主な目的とした日本初の本格的な赤外線天文衛星。赤外線を用いると、ひじょうに遠方の銀河(つまり銀河の過去の姿)や、自ら光り輝くことができない褐色矮星などが観測できる。1983年に打ち上げられた世界初の赤外線天文衛星「アイラス(IRAS)」は20数年前、10か月で25万個もの赤外線源を検出した。その性能と比べると、「あかり」の感度は一桁以上、解像度も数倍以上も高い。原始銀河や原始惑星系円盤、遠方の暗い彗星などを続々と発見することだろう。(スペースガイド宇宙年鑑2006 より)