惑星の母は恒星の助産婦

【2006年8月3日 Spitzer Newsroom

原始星をとりまく円盤の中から、惑星は生まれる。一方で、同じ円盤が原始星の回転にブレーキをかけることで、原始星が恒星として輝きはじめる助けになっているかもしれない。NASAの赤外線天文衛星スピッツァーがその証拠をつかんだ。


(円盤が恒星にブレーキをかけるイメージ図)

円盤が恒星にブレーキをかける様子を描いたイメージ図。リリース元では動画も公開されている。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/R. Hurt (SSC))

それは産みの苦しみと言えるだろう。ガスのかたまりが核融合で輝く「恒星」となるためには、十分に収縮して高密・高温の状態になる必要がある。しかし、ガスが小さくまとまればまとまるほど、氷上で腕を縮めたフィギュアスケートの選手と同じように、回転が速くなってしまう。そうなれば当然、遠心力が働いてガスの収縮を妨げる。もし核融合が始まる前に遠心力と重力がつり合ってしまったら、恒星の誕生はあり得ない。

一般に原始星は半日で1周以下という猛烈なペースで自転している。これでも、単純に収縮した場合に比べて遅いらしい。いったいブレーキをかけているのは何だろう?

まず思いつくのは、原始星をとりまく原始惑星系円盤だろう。大部分が中心に集まる一方で、余ったガスとちりは中心星に比べてゆっくり回転する円盤を形成している。原始星の近くにいる天体は、他に存在しない。実際、多くの研究者も同じ事を考えている。具体的には、原始星と円盤が直接ふれあうのではなく、原始星とともに回転する磁場が円盤の中を通ることで抵抗を受ける、という理論だ。

原始惑星系円盤は中心星に加熱されて赤外線で輝く。そこで、赤外線天文衛星スピッツァーの出番だ。アメリカの大学の研究チームが、スピッツァーを使ってオリオン座大星雲(解説参照)の中にある若い星500個を観測した。すべての星を回転の速さで2つのグループに分けたところ、回転が遅いグループは速いグループに比べて円盤を持つ割合が5倍も多いことが判明した。

結論について、研究グループは慎重だ。オリオン座大星雲の外で同じ結果がでるかわからないし、円盤が唯一のブレーキとは限らないからだ。例えば、恒星風や成長しきった惑星も星の回転に影響を与えうる。とはいえ、原始惑星系円盤が恒星そのものの誕生にも大きくかかわっているのは、ほぼ間違いなさそうだ。

では、惑星を持つ恒星ほど自転速度は遅いのかというと、断定はできない。そうした星は、ただ単にブレーキとなる円盤を吹き飛ばすのに時間がかかっただけかもしれないからだ。結論を導くには、実際に系外惑星を探すしかない。今のところ、既知の惑星は例外なく、ゆっくり自転する恒星の周りを回っている。太陽系の太陽の場合も、1回転あたり1か月近い。

オリオン座大星雲(M42)

冬の夜空に輝く勇者オリオンが腰にぶらさげた剣のあたりにある、有名な大散光星雲。目で見ても写真に撮っても、すばらしい美しさを見せてくれる。M42の中心部では活発な星生成活動が行われていることが知られている。実視等級4.0等、視直径66×60分角、距離1500光年。

(「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)