世界初の女性宇宙旅行者が国際宇宙ステーションへ

【2006年9月13日 ESA News

9月18日打ち上げ予定のソユーズ宇宙船に、初の女性宇宙旅行者となるアニューシャ・アンサリ(Anousheh Ansari)氏が乗り込むことが発表された。国際宇宙ステーション(ISS)に9日間滞在した後に、再びソユーズで帰還する予定だ。アンサリ氏はただ「観光」にいくのではなく、自ら被験者になるなどしてヨーロッパ宇宙機関(ESA)が行う4つの実験に参加することになっている。


(初の女性宇宙旅行者となるアニューシャ・アンサリ氏)

初の女性宇宙旅行者となるアニューシャ・アンサリ氏(提供:Prodea Systems)

ISSに長期滞在する第14次搭乗員2名を乗せたソユーズ宇宙船(13S)の打ち上げが日本時間の9月18日午後1時9分に実施される。この13Sには、女性としては初の宇宙旅行者となる企業家アニューシャ・アンサリ氏も搭乗する。アンサリ氏は滞在中、ESAが行う人体生理学の実験に参加することになっている。その内訳は、「宇宙線が染色体に与える影響の調査」「無重力で赤血球が破壊される問題の調査」「ISS内のバクテリアの採取」「宇宙での腰痛の調査」だ。

アンサリ氏は打ち上げ前と帰還後に血液を提供することで、宇宙線と無重力がそれぞれ人体に及ぼす影響を調べる、2つの実験に参加する。

宇宙滞在中、人間の身体は宇宙線にさらされる。染色体がダメージを受け、ガンに発展する可能性もある。この影響は白血球の一種であるリンパ球に顕著に表れるので、ISSの乗組員のリンパ球を採取することでリスクについて調査する必要がある。

一方、宇宙に飛び立ってから数日間の間に、宇宙飛行士の若い赤血球が急激に破壊されてしまう事がわかっている。無重力によって上半身の血液中で赤血球濃度が高まってしまうため、体が「適応」するために起きる現象と考えられているが、結果として宇宙飛行士は貧血状態になってしまう。一方地上でも、同じ現象が腎不全患者などにみられることから、そうした重病の治療に研究が役立つことが期待されている。

さらに、アンサリ氏はステーション内のスイッチやキーボード、さらに自分自身に付着したバクテリアのサンプルを採取することになっている。これは、無重力環境においてある種のバクテリアが地上よりも早いスピードで成長することが知られているためだ。中には抗生物質への耐性を持つものもあるが、乗組員の健康に及ぼす影響は未知数だ。

宇宙飛行士は、よく腰痛を経験する。よく考えてみればこれは不思議な現象だ。ふつう腰痛は、人類が二足歩行をしているため、重力によって背骨に大きな負担がかかるのが原因だとされているからだ。この「宇宙腰痛」の原因としては、背骨を固定するある筋肉の働きが弱まるからではないか、という仮説がある。アンサリ氏は毎日痛みなどに関するアンケートに記入することになっているが、そこから得られた知見は宇宙だけでなく地上で悩まされている人々にも光明を与えてくれるかもしれない。

このようにESAは、国際宇宙ステーションにおいて、物理学、化学、生理学、心理学やバイオなど、広範囲にわたる実験を日々タイトなスケジュールでこなしている。中でも、人体機能学分野における多くの実験は長期的計画で実施されている。2005年10月に宇宙旅行者となったアメリカのGregory Olsen氏も同様に実験に参加していた。

なお、アンサリ氏は9日間の滞在の後に、ソユーズ宇宙船(12S)で2006年4月からISSに滞在していた乗組員とともに地球に帰還する予定となっている。

ソユーズ宇宙船

ソユーズロケットによってバイコヌール射場から打ち上げられるロシアの有人宇宙船。初飛行は1967年。かつては宇宙ステーション「サリュート」「ミール」、現在は「国際宇宙ステーション」(ISS)と地上を結ぶ。宇宙飛行士が軌道上で作業をする「オービター」、宇宙飛行士が乗り込む「降下船」、エンジンを搭載した「計器モジュール」からなる。降下船のみが、地球に帰還する。(「スペースガイド宇宙年鑑2006」より)