板垣さん発見の超新星2006jcで起こった2種類の爆発
【2007年6月20日 VSOLJ ニュース(176)】
板垣公一さんが発見した超新星2006jcは、増光の後に超新星爆発を起こした天体として今年4月に注目を集めた。日本を含めた国際的なチームによるその後の研究で、2006jcの組成や最初の爆発のようすが示された。超新星爆発を起こすような大質量星について、なぞにつつまれた一生を解明する重要なヒントが提示された。
《概要》
山形市の板垣公一(いたがきこういち)さんが、昨年10月に発見した特異な超新星2006jc(VSOLJニュース 160)について、板垣さんおよび九州大学の山岡均さんを含む世界各国の研究者の連名による報告がNature 6月14日号に掲載されました。それによると、この超新星は、中心からの全体爆発(これが超新星として観測された)の時点で、ヘリウムに富む星周物質に囲まれた炭素・酸素コア星であったこと、超新星爆発の2年前に表面爆発を起こし、外層を放出したとみられることが示唆されています。この2種類の爆発がひとつの天体で観測されたのは初めてで、たいへん注目されます。
《背景》
星全体が吹き飛ぶ大爆発は、超新星と呼ばれています。超新星のメカニズムのひとつに、誕生時に太陽の8倍以上の重さを持っていた星が、一生の最終段階で起こすものがあります。重い星は個数が少なく、その一生のようすはまだよくわかっていません。特に、この種の超新星爆発は星がもともと持っていた外層部を失った後に起こる例が多く、その外層部と周りにある物質(星周物質)のようすによって多様な姿で観測されるのですが、外層部が失われていくようす、そしてそのメカニズムについては、これまでほとんど手がかりがありませんでした。りゅうこつ座ηはおそらく外層放出中の星ですが、この星がいつ超新星爆発を起こすのかわかりませんし、それを待っているわけにもいきません。
《超新星とそれに先立つ増光》
2006年10月、山形市在住のアマチュア天文家、板垣公一さんが超新星を発見しました。彼は2年前にも、ほぼ同じ場所に増光天体を見つけていたのです。2年前の現象も解析していた山岡さんは、発見画像の提供を受けて、この2つの現象の位置が完全に一致すると結論しました。2年前の解析時から、過去50年間のアーカイブ画像で、この天体が見えたり見えなかったりしており、増光が繰り返されていたと考えられます。
超新星となった後のスペクトルはヘリウムの細めの輝線が顕著で、この星がヘリウムが主成分の星周物質に囲まれていたことを物語っています。X線が強く観測されたこともこれを支持します。この星周物質はどのように供給されたのでしょうか。2年前の増光に伴って、表面から爆発的に外層部を放出し、星周物質となったと考えるのが自然です。
結果、この天体の正体は、太陽の何十倍もの重さを持って生まれた星が、外層を何回にも分けて放出してきた結果、水素に富む外層、そしてヘリウムの層をも失って、炭素・酸素でできた中心部だけになった結果、超新星となったものであろうと考えられます。つまり2004年の増光は、ヘリウム層を吐き出す表面爆発の最後の1回で、2006年の爆発は星が一生の最後に起こす超新星爆発だったのです。表面爆発と全体爆発(超新星)の両方が1つの天体で観測されたのは世界初です。
この現象は、これまでくわしく解明されていなかった重い星の進化の過程に、大きなヒントを与えてくれるものだったといえるでしょう。
《今回の成果の意義》
天文学は、アマチュアが大いに活躍している数少ない学問分野のひとつです。特に日本のアマチュア天文家は、新天体の発見をはじめ、幅広くかつ深い活躍を見せています。今回の発見は、そのような活動の成果であります。今後も、彼らの活躍が大いに期待されるところです。
プロの天文学者としては、彼らの活躍をより実りあるものにするため、日々努力していきたいと考えています。特に、アマチュア天文家が発見した新天体を研究することは、その発見を意味あるものにするために必須です。これからも、アマチュアとプロが手を取り合って、天文学を推進していきたいと考えています。
天体は、すべての人の頭上に輝いています。天体の観測に国境はありません。ある天体を観測し、その正体を見極めるには、国際協力がたいへん重要です。天文学を通じて、国際競争ばかりでなく、協力関係を醸成することを、今後も推進していきたいと考えています。