ホームズ彗星のバーストに赤外線で迫る

【2008年10月17日 Spitzer Newsroom

2007年10月に2等台まで増光して世界を驚かせたホームズ彗星(17P)。その原因に迫るべくNASAの赤外線天文衛星スピッツァーが撮影した画像の分析が進められているが、かえって謎が深まっている。


(スピッツァーによるホームズ彗星の画像)

スピッツァーが2008年3月に撮影したホームズ彗星。左は波長24μm(マイクロメートル=100万分の1m)の赤外線で撮影した画像で、右はコントラストを強調したもの。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech)

ホームズ彗星はおよそ6年周期で木星と太陽付近を行ったり来たりする目立たない彗星だが、発見直後の1892年11月にバーストを起こしたことで知られる。2007年10月には再びバーストし、17等前後から100万倍も増光して2等台にまでなった。この珍現象を解明すべくあらゆる望遠鏡がホームズ彗星に向けられたが、赤外線天文衛星スピッツァーもその1つだ。

スピッツァーはバースト直後の2007年11月と5か月後の2008年3月にホームズ彗星を観測した。「スピッツァーから得られたデータは、ふだん彗星を観測したときに見られるものとまったく異なりました」と観測を率いたカリフォルニア工科大学スピッツァー科学センターのBill Reach氏は言う。

2007年11月の観測データから、ホームズ彗星が放出した物質の成分を分析したところ、砂粒より細かなケイ酸塩の粒子が大量に検出された。同じ成分はテンペル第1彗星にNASAの探査機ディープ・インパクトが突入したときなどにも発見されている。彗星核に含まれるちりの粒は本来もう少し大きいが、激しい現象にさらされると粉々に破壊されるらしい。

2008年3月の観測では、細かな粒子は消失して大きな粒子だけが残っていた。Reach氏によれば、「ホームズ彗星のバーストのような激しい現象が起きたとき、彗星のちりの成分を調べる時間はごく短いと言えますね」。

さらに特異だったのは、彗星核から放出された破片の挙動だ。地上からの観測で、バースト直後のホームズ彗星では彗星核のまわりに吹き流しのような構造がいくつか見つかったのである。2007年11月の時点で吹き流しは太陽と反対方向に伸びていたため、太陽からの放射でそのまま流されるだろうと予想された。

ところが、2008年3月になっても吹き流しは健在で、彗星の進行方向や太陽の方向が変わっているにも関わらず、5か月前と同じ方向を向いていたのだ。このような現象が彗星で見られるのは初めてのことで、研究チームは吹き流しについてさらに解明する必要があるとしている。

画像右のとおり、吹き流しの外側には殻のように物質が集まっていたが、こちらも5か月間で予想したほどの変化を示さなかった。どうやら、平均1mmほどの比較的大きく動きにくいちり粒が残っているようだ。

「人間同様、どの彗星にも少しずつ違いがあります。私たちは何百年も…ホームズ彗星の場合は116年…研究していますが、いまだによく理解できているとは言えないのです。ただ、スピッツァーなどの観測によって、だんだん答えに近づいています」とReach氏は述べている。