2013〜2022年にNASAが打ち上げる探査機のミッション候補を発表
【2011年3月16日 NASA】
全米研究評議会が、2013〜2022年にNASAが行う宇宙探査ミッション計画候補を発表した。今後の予算の動向を見ながらどのようなミッションが実施されるのか注目される。
全米研究評議会(NRC)(注1)が、2013年からの10年間でNASAが行う惑星探査ミッション計画について発表した。3つの大きな探査計画を中心として、その他中小の探査計画が挙げられており、予算の動向を見ながらこのリストから探査計画の選定が進んでいくものと考えられる。この報告書はNASAと全米科学基金(NSF)からの要請を受けて全米研究評議会が提出したものである。
大型の探査計画でもっとも優先順位が高いとされたのは火星探査の火星宇宙生物探査機(MAX-C。和名は暫定訳、以下同)だ。欧州宇宙機関(ESA)と共同で行われ、2022年以降には火星からのサンプルリターンを含む3つのミッションが予定されている。ミッションでは2台のローバーによる探査が計画されており、火星表面のその場観測によって、太古の火星生命の証拠や生命に必要な化学物質を探すことが目的とされている。また将来のサンプルリターンのための知見を集めることも目的とされている。
次に優先順位が高いのは木星エウロパ観測機(JEO)だ。木星の中で2番目に大きい衛星であるエウロパの探査を目的としている。エウロパの表面は氷で覆われているが、木星の影響で内部に海が存在している可能性があるといわれており、生命居住可能領域(ハビタブルゾーン)となっているかどうかの調査が主な目的となっている。
3番目に優先順位が高いのは天王星への探査機だ。実現すれば、ボイジャー2号以来初めての天王星探査となる。非常に謎の多い天王星の内部構造や大気、組成について詳細な探査を行うとともに、天王星の環や衛星に関する観測も行う。
その他中小の探査計画として以下のものが挙げられる。中小の探査計画からは4つないし5つを選び探査計画が実施されることが検討されている。NRCによって複数のシナリオが提示されているが、大型の探査計画も含め具体的にどの探査計画が行われるかは今後のNASAの予算を見ながら決定される。
- 火星微量気体成分観測機(TGO):
- 火星大気における微量ガス成分の時間変化や地理的変化、大気の状態、大気と地表面の相互作用を見ることによって、火星の大気に関する知見を得る。
- 彗星表面からのサンプルリターン(Comet Surface Sample Return):
- 彗星のコア(核)表面のサンプルリターンとサンプル取得領域の観測、彗星に存在する複雑な有機物の取得を目指す。
- 南エイトケン盆地サンプルリターン(Lunar South Pole-Aitken Basin Sample Return):
- 月にある非常に古い時期に形成されたとされる、月面の「南エイトケン盆地」から1kg以上のサンプルを地球に持ち帰り月の歴史の解明を行うほか、サンプルの採取地点の詳細な表面観測を行うことを目的としている。
- 土星探査機(Saturn Probe):
- 土星大気を探る。希ガス(注2)の量や水素、炭素、窒素、酸素の大気中の同位体比(注3)の測定を行い、またプローブにより土星の大気構造の解明に迫る。
- トロヤ群(注4)巡回・ランデブー(Trojan Tour and Rendezvous)
- 木星軌道あたりにある複数のトロヤ群小惑星の観測を行い、その組成や表面の様子、表面近くに揮発性物質がないかなどの測定を目的とする。宇宙航空研究開発機構(JAXA)も、小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス(IKAROS)」で得たソーラーセイルの技術を利用し、独自にトロヤ群探査を行う計画を立てている。
- 金星探査機(Venus In Situ Explorer):
- 金星周回機による金星大気の観測のほか、着陸機による金星地表面の観測や化学組成などの分析を行う。金星は旧ソ連が1度だけ着陸機による写真撮影に成功しているほか、現在はESAの「ビーナスエクスプレス」が表面の観測をしている。JAXAの「あかつき」も、2010年12月の軌道投入には失敗したものの、6年後の軌道投入を目指している。
- イオ観測衛星(Io Observer):
- イオの内部構造やイオの火山噴火(注5)のメカニズムの解明を目指す。
- 月物理ネットワーク(Lunar Geophysical Network):
- 月の内部構造や月震(注6)、月の熱流量や岩石の全岩組成などに関する知見を集める。
注1:「全米研究評議会」 アメリカの研究開発の取りまとめを行っている機関。全米アカデミー(The National Academies)の実行機関でもある。
注2:「希ガス」 ヘリウムやアルゴンなど周期表の第18族にあたる気体。他の元素との反応性に乏しく、ほとんどの場合で気体として存在する。
注3:「同位体」 同じ原子番号の元素でも中性子の数が異なるものを同位体と呼ぶ。例えば酸素であればほとんどが8個の中性子を持つが、一部に9個や10個の中性子を持つ酸素が存在する。太陽系や惑星の形成の理論を検証するためによく測定されている。同位体の化学的性質は全く同じなので質量による効果のみを考えればよいため、より単純なモデルで議論を行うことができる。
注4:「トロヤ群」 太陽から見て惑星の公転軌道上前後60度に存在している小惑星群を指す。木星軌道とは限らないが、現在ではトロヤ群といえば木星軌道に分布している小惑星群を指すことが多い。
注5:「イオ」 太陽系の中でもっとも火山活動の激しい天体として知られている。火山活動の熱源は木星との潮汐力によるものと理解されている。
注6:「月震」 月はプレート運動が行われていないため、地球のような地震は発生しないと考えられているが、何らかのメカニズムによって地震が発生していることが確認されている。この月の地震のことを月震と呼んでいる。