学会発表 「はやぶさ」最後の軌道解析と理科教育実験
【2011年6月17日 東京学芸大学天文研究室】
日本天文学会春季年会の記者発表が6月13日に国立天文台・三鷹キャンパスで行われた。3本のうち、筑波大学のブラックホールの合体シミュレーション研究については6月15日ニュース「銀河中心ブラックホールの形成をシミュレーションで解明」でお伝えした通り。本ニュースでは、「はやぶさ」観測と理科の教育現場というそれぞれの視点から「宇宙・科学の未来」を見渡す2つの研究成果について紹介する。
「はやぶさ」地球帰還時の観測とその軌道解析
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の吉川真准教授らは、小惑星探査機「はやぶさ」の大気圏突入3日前の6月10日に
- 「はやぶさ」プロジェクトの広報周知
- 「はやぶさ」を地上に衝突する小天体に見立てて、直前の観測でどこまで衝突位置が正確に算出できるかを調べるというスペースガード(衝突天体からの防衛と、それにつながる研究等)
- 帰還カプセルからの電波に不具合があった場合に光学観測がそのバックアップとなり得るかの検証
の3つを目的として、地上の大型光学望遠鏡による「はやぶさ」観測を呼びかけた。
日本では天候が悪く、米・ハワイ島の2箇所(すばる望遠鏡、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡)と米・アリゾナ州の2箇所(レモン山天文台、テナグラ天文台)の計4箇所で観測に成功した。
(B)の、衝突天体の軌道計算に関する検証では、人工天体と違って電波を出さない隕石の衝突を想定して、光学的観測のデータのみを利用して衝突位置予測を行った(画像2枚目)。その結果、非常に限られたデータでも、衝突8時間前には衝突位置をある程度絞り込むことができることが実証された。
(C)の検証では、「はやぶさ」からの電波データと地上からの光学観測データを以下のような3パターンで組み合わせてそれぞれ落下位置を予測した。
- 時間を限定した電波データ:
帰還直前に通信が途絶した場合を想定 - 時間を限定した電波データ+光学観測データ:
(1)のような電波の不具合時に、光学観測によるバックアップを行った場合を想定 - 正常な場合の全ての電波データ:
「はやぶさ」帰還時の実際の状況と同様、電波に不具合がなく正常に軌道決定ができる場合を想定
その結果、(1)のケースでは約80km×8kmと非常に広かった着地予測位置の範囲が(2)では2km×0.4kmとかなり狭くなっており(画像3枚目)、光学観測データを加えることで大幅に絞りこめることが確認された。これにより、電波データのトラブルが起こった際に、地上からの光学観測がカプセル等の着地位置推定に非常に役立つことが示された。
小学校教員志望の非理科系学生に対する科学教育
科学に対する子供の興味を育むためには、小学校の段階で適切な理科の授業を行うことが重要となってくるが、小学校教員を目指す教育学部生には非理科系の学生も多く、理科の観察・実験の機会や理科や数学の基礎知識が不足しがちと思われる。
東京学芸大学教育学部の下井倉ともみ氏らは小学校教員志望の非理科生を対象に、小学校で理科の授業を行うための基本的な技能・知識・科学的説明力を獲得させることを目的として、天文分野など原理のわかりやすいテーマについて具体的な観察や実験を取り入れた理科授業を行った。
その結果、授業で取り上げたテーマについては児童に十分説明できるようになった学生の割合が増加したものの「理科を教える自信」そのものについてはあまり改善されておらず、学生の不安を払拭するためには同様の理科授業をより包括的かつ継続的に行う必要があるという。
研究チームでは、今回の調査対象となった東京学芸大学のみならず全国の大学の学生に対して同様の調査を行い、より効果的な教育法を模索していく計画だ。
「天文ニュース」で振り返る「はやぶさ」特集
「はやぶさ」の地球帰還1周年を記念して、過去の「はやぶさ」関連ニュースを全て集めました。「サンプルリターン計画MUSES-C」として初めて登場した1999年の第一報、イトカワへのタッチダウン、地球帰還、そしてサンプルの分析開始に至るまで、その栄光と苦難の道のりをじっくり追い、「はやぶさ」が拓いた宇宙探査の未来に思いを馳せてみましょう。関連グッズやリンク集も。