観測史上わずか7回目 「金星の太陽面通過」まであと1週間

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2012年5月30日 ESAHubbleSiteアストロアーツ特集「金星の太陽面通過」

今回を逃してしまうと次は105年後の2117年まで起こらない、今世紀最後の「金星の太陽面通過」が6月6日に迫った。貴重な機会を利用して、系外惑星探しへの応用などユニークな試みが行われる。


2004年6月8日の金星太陽面通過

2004年6月8日の金星太陽面通過の様子。画像クリックで早送り動画のページへ(提供:ESA)

金星のふちが光って見える「オレオール現象」

金星大気で屈折した太陽光が金星のふちに光って見える「オレオール現象」。2004年にNASAの太陽観測衛星「TRACE」がとらえた。クリックで拡大(提供:NASA/LMSAL)

ハッブル宇宙望遠鏡による観測イメージ図

ハッブル宇宙望遠鏡は、月が反射した太陽光から金星大気の痕跡を探る。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, and A. Feild (STScI))

6月6日に起こる「金星の太陽面通過」に備え、世界中の天文学者や天文ファンが準備を始めている。

金星の太陽面通過は、太陽と地球の間を金星が通るときに起こる。しかし、金星の公転面が地球の公転面に対して少し傾いているために地球と一直線に並ぶ機会は非常に珍しく、約100年に8年間隔をおいて2回起こる程度でしかない。前回の金星の太陽面通過は8年前の2004年、今回の次は105年後の2117年だ。つまり今回を見逃すと次は100年以上待たなければならない(世界中どこでも、である)。

金星の太陽面通過はかつて天文学者が太陽系のサイズを測るのに使われたという、歴史的にも重要な意味を持つイベントだ。太陽を横切るのにかかる時間が観測場所によって異なることから、18世紀の天文学者たちは三角測量の応用で太陽までの距離を計算した。1769年にはジェームズ・クック(キャプテン・クック)がタヒチ島で観測を行い、1874年には世界各地から日本に観測隊がやってきた。

また、1761年の金星の太陽面通過では暗い外縁に沿って明るい輪があることが確認され(オレオール現象)、金星が大気を持っていることが明らかになった。その後、数々の探査機の観測によって、金星は硫酸の雲に覆われており二酸化炭素と窒素から成る高圧の大気を持っていることがわかっている。

現代の天文学者にとって金星の太陽面通過は、太陽ではなく別の星を公転する惑星、つまり系外惑星の観測法を発展させていくための良いモデルともなる。系外惑星探しの主流ともなっている「トランジット法」では、惑星が恒星の前を通る際のほんのわずかな減光から惑星の存在と大きさを知る。また、惑星の大気を通過してやってくる光には水や炭素の存在のような大気組成の情報も含まれるため、系外惑星の生命環境を探る手段ともなっている。

金星ではちょうど、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「ビーナス・エクスプレス」が周回探査を行っている。「ビーナス・エクスプレス」チームは北極近傍のスピッツベルゲン島で真夜中の太陽を通過する金星を眺めながら、最新の観測結果をレポートする。

「金星をビーナス・エクスプレスが周回観測している時に、太陽面通過も見られるなんて楽しみですね。通過と同時にビーナス・エクスプレスは金星大気の観測を行い、その結果を地上望遠鏡のものと比較する予定です。系外惑星ハンターには彼らの技術を試すのに役立つでしょう」(「ビーナス・エクスプレス」プロジェクト研究員のHakan Svedhem氏)。

「ビーナス・エクスプレス」や地上望遠鏡からの観測のほか、ハッブル宇宙望遠鏡が観測する月の光(月で反射した太陽の光)から金星大気の成分を見出すという試みも行われる(画像3枚目)。

こういった観測技術のテストとしても良いチャンスであるとともに、天体望遠鏡による天体観測が始まった1600年代初め以来、わずか7回目の貴重な観測機会として記録が残されるだろう(1631年は観測記録なし)。

今回の現象は西太平洋と東アジア、東部オーストラリア、そして高緯度地域で目撃される。日本では、6月6日の朝7時10分ごろから13時47分まで全過程を見ることができる。平均的な視力なら、5月21日の日食で使った観察グラス(太陽の輪郭がぼやけないもの)を使って見ることができる。日食と違いじっと見ていても動く様子はわからないが、時間をおいて確かめると、小さな黒い点が少しずつ移動しているのがわかるだろう。日食の観察と同様、太陽観察用以外の一般的なサングラスなどは絶対に使わないこと。また金星の影はとても小さいので、木漏れ日などピンホール法での観察は難しいだろう。金星を探そうとするあまり日食以上に凝視しがちになるので、適度に目を休めることにもじゅうぶん注意したい

→ 特集「金星の太陽面通過」:観測の際の注意

金星の太陽面通過を「ステラナビゲータ」でシミュレーション

6月4日の部分月食と6月6日の金星太陽面通過を、天文シミュレーションソフト「ステラナビゲータ」でシミュレーション解説した動画をYouTubeで公開しました。

その他の天文映像はYouTube「AstroArtsVideo」