129億光年かなたの銀河から見る、夜明け前の宇宙の姿

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【2012年6月7日 すばる望遠鏡

総合研究大学院大学と国立天文台の研究チームが、米ハワイにあるすばる望遠鏡とケック望遠鏡での観測から、129.1億光年かなたの銀河を発見した。ビッグバンから7億5000万年後の宇宙にある中性水素ガスの割合が、現在に比べて多いことも確認された。


宇宙の歴史

ビッグバンから現在までの宇宙の歴史。宇宙空間に満たされていた中性水素ガスが宇宙最初の星や銀河からの放射で電離していく。クリックで拡大(提供:国立天文台。以下同)

銀河 SXDF-NB1006-2

129.1億光年かなたの銀河「SXDF-NB1006-2」(左上の画像の赤い天体)と周辺領域。クリックで拡大

もっと遠い銀河

分光観測で距離が正確に求められている遠方銀河ベスト10。クリックで拡大

137億年前、宇宙は高温・高密度の火の玉の大爆発「ビッグバン」によって誕生したが、その直後の宇宙空間は、水素原子が電離した陽子と電子のプラズマ状態だった。約40万年後には宇宙の膨張により温度が下がり、陽子と電子が結びついて中性水素原子となり、その後数億年間は、中性水素ガスに埋もれた宇宙の「暗黒時代」が続く。

約2億〜5億年後、水素ガスの濃い部分から宇宙最初の星や銀河があちこちで作られ、星々が放つ紫外線により中性水素が再びプラズマ状態となった。「宇宙再電離」と呼ばれるこのイベントが起こったのはビッグバンから3億〜10億年の間とされるが、はっきりと「いつどのように起こったのか」「どのような種類の天体が引き起こしたのか」などの具体的なメカニズムは現在でもよくわかっていない。これは、宇宙最初の星・銀河の性質や形成過程に深く関わる大問題だ。

中性水素ガスが多く存在すると、遠方銀河が隠されて見える数が少なくなる。そのため、各時代での銀河の数や明るさを比較することで中性水素ガスが減った時期、つまり「再電離」が起こった時期を特定することができる。

総合研究大学院大学の澁谷隆俊さんらの研究チームは、2008年に搭載された主焦点カメラの新検出器を用いて観測された58,733個の天体の色を見ることで遠方銀河の候補を4つに絞り込み、さらにすばる望遠鏡とケック望遠鏡の分光観測から、遠方銀河に特徴的な輝線を放つ1つの天体を見出した。これが銀河「SXDF-NB1006-2」だった。129.1億光年という距離(赤方偏移7.215)は、分光観測により距離が正確に求められている銀河としては最遠記録を更新するものだ。今回の観測では、広視野装置のおかげで分光しやすい明るい天体が効率的に検出できるというすばる望遠鏡の特徴も大きなメリットとなっている。

銀河「SXDF-NB1006-2」の観測により、「宇宙の歴史を遡るにつれて中性水素ガスの割合が増える」という従来の主張が確認された。129.1億年前の宇宙では水素ガスの約80%が中性の状態である可能性があるということだ。

一方、遠方宇宙における銀河の数を正確に調べるためにはさらに広い視野を観測する必要がある。すばる望遠鏡に取り付けられる予定の新装置HSCはこれまでの7倍もの視野を観測でき、銀河が数多く発見されることが期待される。さらに計画中の次世代超大型望遠鏡TMTでは高い集光力を活かして、さらに遠い銀河からの光をとらえることもできる。すばる望遠鏡のHSCの広視野と超大型望遠鏡TMTの集光力により、夜明け間際の宇宙の姿が解き明かされるのが楽しみだ。