QBPフィルターを使って都会で星雲を撮る

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光害のある都市部でも、星雲の輝線のみを選択的に透過するバンドパスフィルターを使えば天体写真を撮ることができる。そんな夢のような撮影&画像処理法を、「星ナビ」でもおなじみの根本泰人さんがサイトロンジャパンの講習会で披露した。

【2019年2月25日 星ナビ編集部

都市部で星雲を撮るためには、ダイナミックレンジの広い冷却CCDカメラと、星雲の輝線だけを選択的に透過させる「ナローバンド」と呼ばれる特殊なフィルターを使うのが一般的だった。しかし、サイトロンジャパンから新発売の「Quad BPフィルター」と、水素や窒素ガスの発する赤い輝線まで写るように天体改造されたデジタル一眼レフの組み合わせでも、すばらしい写真が得られるようになった。

馬頭星雲&燃える木星雲
馬頭星雲&燃える木星雲(Barnard 33 & NGC 2024)。撮影:根本泰人 2018年11月15日 Skywatcher Espri100ED Pro Quintuplet(f=500mm F5)+キヤノン EOS 6D(HKIR) ISO6400 30秒露光×121コマ 総露出時間約1時間 CGEM赤道儀+ステラショットでディザリングマルチスターガイド ダーク、フラット、フラットダーク、バイアス適用して画像処理。画像クリックで表示拡大

作例の馬頭星雲は、東京都江戸川区で撮影したもの。空の暗い観測地で撮影した写真の方が豊富な色彩再現に長けているとはいえ、東京23区内で撮ったとは思えない写りだ。都市部での星雲撮影が実現したのは、いくつかの天体写真技術の進展があったからだ。

まず、光害をカットする「Quad BPフィルター」は、4種類(Quad)の輝線波長を通すバンドパス(BP)フィルター(以下QBPと略)。4種類の輝線とは、水素ガスのHαとHβ、および酸素ガスの[OIII]、硫黄ガスの[SII]を指す。どれも星間ガスとして一般的なもので、Hβと[OIII]、Hαと[SII]の波長がそれぞれ近いことから、QBPでは比較的幅の広い透過帯を2か所設け、そこに2波長ずつを割り当てている。従来のバンドパスフィルターは特定の輝線ごとに用意されていて、フィルターを変えて撮影する必要があったが、透過波長域はごく狭く、光害カット効果も高い。QBPは、1枚で4種類の波長をカバーするが、その分、バンドの幅が広くなり光害カット効果は弱くなる。

根本さん
QBPの分光透過率グラフを示しながら、星雲輝線と連続光の光害の関係を説明する根本さん(撮影:星ナビ編集部、以下同)

次に、フラット・フラットダーク、ダーク、バイアス適用を行いながら数百枚の画像を重ね合わせることで各種のノイズを平滑化し、ごく淡い星雲を背景宇宙から浮かび上がらせる画像処理テクニックの進展がある。ノイズ低減フィルターや、色調整のための各種ツールが開発された恩恵も大きい。

そしてもう一つは、星が見えない都市部で目標天体を導入することが可能な「ステラショット」の活用だ。試写した画像に星雲が写っていなくても、星の配列から天球上の座標を割り出して導入補正することで、狙った構図にカメラを向けることができる。撮影コマごとにわずかに写野をずらして撮影し、重ねあわせ時のパターンノイズの蓄積を回避する「ディザリング」撮影にも対応している。

ステラショット
星図上で指定した構図に写野を移動させることができる、アストロアーツの天体撮影ソフトウェア「ステラショット」の各種機能も解説。赤道儀・カメラと連動して多数枚の連続撮影も自動的にこなしてくれる

根本さんは「(総合的な)画質は空の暗い観測地でたっぷりと露光した画像には及ばないものの、なにより自宅で写真が撮れるのは実に楽しい」という。複数の新しい天体写真テクニックを組み合わせて処理を最適化する「都会で星雲を撮る」方法は、近く「星ナビ」の「Deepな天体写真」シリーズでも解説してもらう予定だ。

講習会の様子
2月17日にサイトロンジャパンの会議室で開催された「都会の夜空でデジタルカメラを使って散光星雲を撮影する ~QBPフィルターを使った都市部での星雲撮影と画像処理~」の会場では、根本さんの解説に天体写真ファンが熱心に聞き入っていた。サイトロンジャパン&シュミットでは、今後もこのような講習会を開催していきたいという

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