生まれたての活動銀河核ジェットローブの運動
【2019年3月13日 国立天文台VERA】
ペルセウス座の方向約2億光年彼方にある電波銀河3C84は、中心に位置する大質量ブラックホールの近傍からジェットを噴出している。この3C84は普通の電波銀河とは異なり、ジェットの噴出が間欠的であるため、ジェットの吹き溜まりと考えられる「電波ローブ」と呼ばれる構造が様々な空間スケールで複数存在している。ジェットと電波ローブがどのように形成され、成長していくのかを調べるうえで重要な天体だ。
北海道大学(研究当時)の日浦皓一朗さんたちの研究チームは、複数の電波ローブのうち、2005年に誕生したと考えられている新しい構造について、国立天文台の電波干渉計「VERA」でモニター観測を行った。
2007年から2013年までの6年以上にわたる80回に及ぶ観測により、銀河中心の大質量ブラックホールが位置すると想定される場所に対して新構造がどのように運動するかを測定したところ、観測期間中に光速の40%程度で運動していたことがわかった。
これまでの研究から、生まれてから数千年程度の電波ローブは光速の数十%程度で運動することや、生まれてから10万年程度は定速で運動を続けることが知られている。それらと日浦さんたちの研究結果から、新構造が電波ローブに分類できること、生まれてほんの10年以内の電波ローブでも、すでにその進化の系譜を辿っているということがわかった。
さらに、2005年に噴出したジェットが古いジェットに追いついて相互作用したことで、新構造が形成された可能性も示された。ジェットの軸がふらついていることから、ジェットの根元にあるガス降着円盤自体がふらついている可能性も示唆されている。
今後も生まれたてのジェットと電波ローブについての研究が進み、それらの形成・進化について理解が進むことが期待される。
〈参照〉
- 国立天文台VERA:生まれたての活動銀河核ジェットの吹き溜まりが運動する様子を捉えることに成功!
- PASJ:VERA monitoring of the radio jet 3C 84 in the period of 2007–2013: Detection of non-linear motion 論文
〈関連リンク〉
関連記事
- 2024/09/19 鮮やかにとらえられた天の川銀河の最果ての星形成
- 2024/06/03 天の川銀河内初、高速ジェットと分子雲の直接相互作用が明らかに
- 2023/12/01 ガンマ線と可視光線偏光の同時観測で迫る光速ジェット
- 2023/10/02 ジェットの周期的歳差運動が裏付けた、銀河中心ブラックホールの自転
- 2023/09/25 銀河中心ブラックホールのジェットが抑制する星形成
- 2023/08/09 電波銀河の巨大ブラックホールに落ち込む水分子
- 2023/06/12 プラズマの放射冷却で探るM87ジェットの磁場強度
- 2023/05/01 超大質量ブラックホールの降着円盤とジェットの同時撮影に成功
- 2022/12/06 M87ブラックホールのジェットがゆるやかに加速する仕組み
- 2022/12/01 ブラックホールを取り巻くコロナの分布、X線偏光で明らかに
- 2022/11/28 クエーサーから絞り出されるジェットの根元
- 2022/11/25 銀河中心核のブラックホールを取り巻く塵のリングを検出
- 2022/10/19 中性子星の合体で放出された、ほぼ光速のジェット
- 2021/10/15 生まれたてのジェットとガス雲の壮絶な衝突現場
- 2021/07/29 磁場で超高速回転する原始星ジェット
- 2021/07/27 電波銀河ケンタウルス座Aの巨大ジェットの根元にせまる
- 2021/05/12 風上に伸びるジェットが示す、銀河団の磁場構造
- 2021/04/19 電波からガンマ線まで、空前の多波長観測でM87のブラックホールジェットを撮影
- 2021/03/25 太陽系でもユニークな気象怪物、木星の成層圏に吹く風
- 2021/02/16 アルマ望遠鏡、赤ちゃん星から吹く風をとらえる