「はやぶさ2」第2回着陸を7月11日に決行
【2019年6月26日 JAXA】
探査機「はやぶさ2」は今年4月、リュウグウ表面に直径約10mの人工クレーターを作ることに成功した(参照:「「はやぶさ2」クレーター実験成功、飛散物質の「カーテン」をとらえた」)。このクレーターから飛び散ったリュウグウ内部の物質を地球へと持ち帰ることが残された最大の任務となっており、そのためにはクレーター付近にタッチダウンして試料を採取する必要がある。
一方で、2月22日の第1回タッチダウンで採取した試料がすでに機体に格納されていることから、2回目のタッチダウンに失敗して1回目の試料ごと機体を失ってしまうリスクを避けて、今の状態のまま地球に帰還し、第1回タッチダウンで得た試料だけを持ち帰るという選択肢も残されていた。
この点について運用チームでは、5・6月の低高度運用で得た画像データから着陸候補地の分析を行うとともに、第2回タッチダウンを行うことの理学的・工学的価値や成功の可能性を評価する作業を慎重に進めてきた。
その結果、リュウグウ地下の物質を採取できる科学的な意義がきわめて大きいことや、じゅうぶん安全なタッチダウン運用を行える見通しが立ったことなどから、第2回タッチダウンを実施するとの結論に至ったという。
第2回タッチダウン(運用名:PPTD)は7月9日に開始し、7月11日午前11時ごろ(「はやぶさ2」機上での時刻、日本時間)にリュウグウへの着陸が行われる。万一途中で降下中止などの事態になった場合には、バックアップとして7月22日の週に再度タッチダウンを目指す。
着陸地点は、人工クレーターから北北西に20mほど離れた「C01-Cb」という直径7mの円内に決まった。着陸時の目印となるターゲットマーカーはこの円の中心から2.6m離れた場所にすでに投下済みだ(参照:「「はやぶさ2」マーカーを次回着陸候補地に精密投下成功」)。
「C01-Cb」の円内には最大で高さ65cm程度の岩が3個ほど存在している。現在の「はやぶさ2」はクレーターを作る衝突装置の投下も終わり、燃料も減っているために機体の重量が軽くなっていて、接地の瞬間に機体が沈み込む量も以前よりは小さいと予想される。そのため、この程度の岩であれば機体に接触することはなく、安全に降りられると判断された。
「はやぶさ2」プロジェクトマネージャーの津田雄一さんによると、「C01-Cb」の平坦地の広さ(半径3.5m)は第1回タッチダウンで着陸した場所(半径2.8m)よりも少し広く、凹凸の程度はほぼ同じであるため、地形的には1回目のタッチダウンのときよりも楽になっているという。
2月の第1回タッチダウンの際に大量の砂粒などが舞い上がったため、ターゲットマーカーを検出する光学航法カメラ「ONC-W1」や高度測定用のレーザー・レンジ・ファインダー(LRF)に汚れが付着しており、受光量が当初の半分程度にまで下がっている。このため、第2回タッチダウンではターゲットマーカーの捕捉を始めるホバリング高度を45mから30mに下げ、光量不足を補うことになった。また、探査機の自律判断プログラムを「より安全側に倒す」ことにして、トラブル時に自律的に降下中止する判断基準をやや厳しくしているとのことだ。
津田さんは第2回タッチダウンについて、「『はやぶさ2』をはじめ、JAXAの宇宙探査プロジェクトはすべて、確かな技術力の上で挑戦をしてきた。私たちも、常に技術的に冷静な評価をして成功を積み上げてこられたので、その上で挑戦をしないという選択肢はないと考えた。ありがたいことに、チーム内の議論も『どうやれば第2回タッチダウンを行えるか』という方向で不思議なほど一致し、団結できている。最後まで完遂できるようにチーム一同頑張りたい。皆さんにも見守っていただき、挑戦を共有したい」と語っている。
(文:中野太郎)
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