観測史上最大、直径130kmの彗星核
【2022年4月19日 NASA】
ベルナージネリ・バーンスティーン彗星(C/2014 UN271)は、チリのセロ・トロロ汎米天文台で行われている「ダークエネルギーサーベイ(DES)」で2014~2018年に撮影されたアーカイブ画像から2021年6月に発見された。その後、チリ・パラナル天文台でも2010年11月にこの天体が偶然撮影されていたことが判明した。撮影時の距離は太陽から34.1天文単位(約51億km)で、海王星とほぼ同じ遠さだ。
現在、ベルナージネリ・バーンスティーン彗星は太陽から約28億kmの距離にあり、太陽系の軌道面にほぼ垂直な長楕円軌道で太陽に近づいている。この距離では彗星核の表面温度は-210℃ほどにしかならないが、それでも一酸化炭素が昇華して塵の多い「コマ」を作り出している。近日点は土星軌道よりやや遠い約16億km(10.9天文単位)で、太陽や地球のそばまで近づくことはない。近日点通過は2031年1月と予測されている。
マカオ科学技術大学のMan-To Huiさんたちの研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)で撮影した画像をもとに、ベルナージネリ・バーンスティーン彗星が直径約130kmもの巨大な核を持つことを明らかにした。これは過去に観測された彗星核の中でも最大で、典型的な彗星核の約50倍もある。これまでの彗星核の最大記録は、2002年に発見されたリニア彗星(C/2002 VQ94)で、直径約96kmだった。
「この彗星は文字通り氷山の一角で、太陽系のもっと遠いところには暗くて見えない彗星が何千個もあるはずです。この彗星はこれほど遠方にありながら非常に明るいので、核は大きいはずだと常々考えていました。ついにそのことを確認しました」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 David Jewittさん)。
ベルナージネリ・バーンスティーン彗星は非常に遠いため、HSTの性能をもってしても核とコマを分離することはできない。そこで研究チームでは、HSTの画像に合うようなコマの輝度分布のモデルを作り、これを画像から差し引くことで核の明るさ成分だけを抽出した。
こうして得られた核のみの明るさを、過去にアルマ望遠鏡で得られたこの彗星の電波観測データと比較することで、核の直径と反射率の推定値をしぼり込んだ。その結果、核のサイズはアルマのデータのみから導かれた過去の推定値とほぼ同じになったが、核の反射率はこれまでの推定よりも小さい、つまり「より黒っぽい」ことがわかった。今回の結果によると、この彗星の核は石炭よりも黒いという。
ベルナージネリ・バーンスティーン彗星は、太陽系の最も外側にあると考えられている「オールトの雲」から、100万年以上もかけて太陽に接近しつつあるところだ。オールトの雲は「彗星の巣」とも呼ばれ、最も内側でも2000~5000天文単位というきわめて遠い距離に分布している。まだ木星や土星の軌道が大きく変化していた数十億年前に、これらの巨大惑星の重力でピンボールのようにはじき出された彗星が集まっている場所だ。オールトの雲にある彗星は、太陽系の近くを通過する別の恒星の重力によって時おり軌道を乱され、太陽へ向かって落ちてくる。NASAの惑星探査機「ボイジャー」がオールトの雲の内側に到達するのは300年後、通過には3万年かかると推定されている。
オールトの雲の彗星は、太陽系形成初期の物質がそのまま凍結保存されているサンプルだ。今後、ベルナージネリ・バーンスティーン彗星を詳しく観測することで、オールトの雲に含まれる彗星の大きさの分布や、地球質量の20倍とも推定されているオールトの雲の総質量についても手がかりを得ることができ、太陽系の進化にオールトの雲がどのような役割を果たしたかを理解することにつながるかもしれない。
〈参照〉
- NASA:Hubble Confirms Largest Comet Nucleus Ever Seen
- The Astrophysical Journal Letters:Hubble Space Telescope Detection of the Nucleus of Comet C/2014 UN271 (Bernardinelli-Bernstein) 論文
〈関連リンク〉
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