宇宙の極限環境で合成される元素の割合を加速器実験から算出

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中性子星合体や超新星爆発で起こるとされる元素合成の一種「r過程」で作られる重元素の割合を見積もるための加速器実験が成功した。これにより、宇宙初期の天体と太陽系の組成比を比較することができる。

【2022年10月26日 理化学研究所

恒星内部の核融合反応では、水素のような軽い元素から重い元素を生成することができるが、鉄よりも重い元素は作れない。そこで、鉄を上回る重元素を合成できるようなプロセスの一つとして考えられているのが「速い(rapid)中性子捕獲過程」、通称「r過程」だ。これは極限的な高温高密度環境において、短時間のうちに次々と原子核に中性子が取り込まれる過程で、連星を成す中性子星の合体や重い恒星が起こす超新星爆発で生じると予想されている。r過程は、宇宙に存在する鉄より重い元素の半分、とくにトリウムやウランのように非常に重い元素については全量の生成に関わっているとされる。

ビッグバンから間もないころに生まれた恒星には水素とヘリウム以外の元素がほとんど含まれず、「金属欠乏星」とも呼ばれる。このような星でも、1回だけのr過程で合成された純粋な重元素成分を持つものがあると考えられており、そこに含まれる元素やその同位体(中性子の数が異なる元素)の存在比がr過程の起源を解く鍵とされている。2018年には金属欠乏星におけるバリウムの同位体比が報告された。

r過程で生成されたバリウムの起源を突き止めるため、理化学研究所仁科加速器科学研究センターRI物理研究室のビー・ホー・ホアンさんをはじめとする国際共同研究グループは、「超伝導リングサイクロトロン」で光速の70%まで加速させたウラン238をベリリウムに照射し、核分裂反応によって不安定な原子核を生成し、この原子核が崩壊する際の遅発中性子の放出確率を調べた。

その結果、生成された原子核のうち銀130(130Ag:中性子数83)やインジウム136(136In:中性子数87)など中性子過剰な8種について、世界で初めて遅発中性子放出確率が得られた。このうち136Inを含む6種では、中性子を2個放出する現象が観測された。

生成された放射性同位体元素と現象例
(上)生成された放射性同位体元素の粒子識別結果。色は粒子の統計量(生成数)に対応。黒枠の中が、今回初めて遅発中性子放出測定に成功した8種類の原子核。(下)インジウム136が遅発中性子を放出し、軽いスズ135やスズ134に変換される様子の模式図(提供:理化学研究所リリース、以下同)

こうして得られた遅発中性子放出確率のデータを連星中性子星合体における重元素合成計算に取り込み、太陽系における質量数130前後の同位体分布を計算したところ、r過程での同位体分布は質量数130にピークを持つこと、偶数の質量数を持つ元素(テルル130やバリウム138など)が多く奇数の質量数を持つ元素(ヨウ素129やキセノン131など)が少なくなるという実際の同位体分布の凸凹パターンをよく再現することが確認された。

また、同様の計算で太陽系のバリウム同位体比を見積もったところ、金属欠乏星の比と近いこともわかった。加速器実験による測定値から同位体比を初めて正確に予測した今回の研究成果は、宇宙初期と太陽系の重元素の起源の解明に新たな道筋を与えるものと期待される。

金属欠乏星のバリウム同位体比との太陽系のバリウム同位体比
金属欠乏星のバリウム同位体比との太陽系のバリウム同位体比。縦軸は、質量数が奇数のバリウムの同位体比を示す。太陽系のバリウム同位体比はs過程成分の影響を受けるため純粋なr過程成分よりも小さいが、今回の研究結果から、金属欠乏星の成分比により近い値になることがわかった。画像クリックで表示拡大