水星の特異な磁力線から示唆される水の形成
【2024年11月7日 金沢大学】
水星は太陽からの平均距離が約6000万km(太陽~地球の約4割)しかなく、昼の表面温度は約430度に達する。一方で、南北の極域のクレーター内部には、太陽光が差し込まない永久影となる摂氏マイナス170度以下の領域があり、氷の存在も報告されている。氷のもととなった水の供給源としては彗星などの天体衝突による「外因性供給」が有力候補として考えられているが、外部からの供給以外の可能性として、表面で何らかの水形成メカニズムが働いているかもしれない。
たとえば、大気も磁場も持たない月では、地球からの高エネルギー電子が月の水形成に影響を与えているとする研究結果が報告されている。また、太陽風が月面に直接衝突する際に、太陽風の陽子と月面岩石中の酸素イオンが化学作用し、水が生じるという説もある。
これに対して、水星は固有の磁場を持ち、その磁気圏により太陽風が水星表面に直接衝突することを防いでいる。そのため、水星表面での水形成においては、太陽風の直接衝突以外のメカニズムが必要となる。
日欧の水星探査ミッション「ベピ・コロンボ」では、2021年と2022年の水星フライバイ時に水星磁気圏の電磁波を観測し、ホイッスラー波動の一種であるコーラス波動が水星磁気圏内に存在することを確認した。ホイッスラー波動は高エネルギー電子を効率よく散乱し、地球では特殊なオーロラを発光させる原因にもなっている。
金沢大学の尾崎光紀さんたちの研究グループはコンピューターシミュレーションを用いて、水星のホイッスラー波動による電子散乱の影響について詳しく調べた。その結果、ホイッスラー波動によって高エネルギー電子が効率よく水星表面に降下する様子が明らかになった。
とくに、南北非対称な構造となっていると考えられている水星の特異な磁力線構造により、ホイッスラー波動の成長が促されて、対称な磁力線構造を仮定した場合に比べて3.8倍も多くの高エネルギー電子を南北極域表面へ降下させることがわかった。さらに、降下する電子の数が、数十ミリ秒オーダーでホイッスラー波動の強度変化とよく似た変動を示し、ホイッスラー波動による非線形なプラズマ散乱メカニズムが効率のよい電子降下を担っていることが示された。
水星の磁気圏に捕捉された高エネルギー電子が効率よく水星表面へ降下するメカニズムを明らかにした今回の研究成果は、水の「その場形成」の新しい源として注目すべき現象だ。また、このメカニズムは、水が形成された後に宇宙空間に流出してしまった場合にも、輸送効果による水形成への間接的な影響があることを示唆している。
〈参照〉
- 金沢大学:水星特異の磁力線がもたらす高エネルギー電子降下と水形成メカニズムの一端を解明
- Geophysical Research Letters:Implications of asymmetric loss cone distribution on whistler-driven electron precipitation at Mercury 論文
〈関連リンク〉
- JAXA:
- 水星磁気圏探査機「みお」X(@JAXA_MMO)
- ESA:BepiColombo
- アストロアーツ:
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