太陽フレアが宇宙望遠鏡のノイズに与える影響をAIで解明

このエントリーをはてなブックマークに追加
機械学習による解析から、太陽フレアに伴うX線強度の変動が即時的に、宇宙望遠鏡の検出器応答に影響を与える可能性が示された。宇宙望遠鏡データの信頼性向上や宇宙天気の観測手法の開発につながることが期待される。

【2026年5月12日 名古屋市立大学

2013年から2023年まで活躍した惑星分光観測衛星「ひさき」は、惑星大気と太陽風の相互作用や、木星周辺のプラズマ領域の磁場環境を調べた宇宙望遠鏡だ。

惑星分光観測衛星「ひさき」
惑星分光観測衛星「ひさき」の想像図(提供:JAXA

「ひさき」に搭載された「マイクロチャンネルプレート(MCP)検出器」では、観測対象である紫外線光子とは異なり、宇宙線などによって検出器が応答して生じる「ダークカウント」が存在する。このダークカウントは単なるランダムノイズではなく、太陽活動や地磁気環境などの影響を受けて時間的に変動するが、複数の物理過程が重なり合っているため、どの現象がどの程度寄与しているのかを定量的に分離することは困難だった。

とくに、太陽フレアや、フレアの発生に伴って大量のプラズマが放出されるコロナ質量放出(CME)といった太陽活動が検出器に与える影響については、経験的な関連性は指摘されていたものの、観測データに基づいた定量的な評価や因果関係の解釈は十分に行われてこなかった。

太陽フレアとコロナ質量放出
(上)太陽フレア、(下)コロナ質量放出(提供:NASA/SDO, NASA/ESA/SOHO

名古屋大学の古賀亮一さんたちの研究チームは、機械学習を用いて複雑な要因の関係をモデル化し、その内部構造を解釈可能にすることで、ダークカウント変動(主に地球放射線帯(バンアレン帯)の高エネルギー粒子や太陽フレアに伴うX線に起因する成分)の物理的起源の解明を目指した。

古賀さんたちは「ひさき」の5年分のダークカウントのデータと衛星の軌道情報を集め、さらに別の衛星のデータからX線や磁場強度なども加えて機械学習モデルを構築した。そのうえで、モデルの予測結果に対して各特徴量がダークカウント変動にどの程度寄与しているかを、時間ごと、イベントごとに評価した。

その結果、ダークカウントの急増イベントは一様な原因では説明できず、イベントごとに支配的な要因が異なることが明らかになった。とくに、従来主因と考えられてきたコロナ質量放出に伴う高エネルギー粒子の増加に加えて、太陽フレアに伴うX線強度の増加がほとんど時間遅れなくダークカウントに寄与するケースもあることが示された。「粒子到達後に影響が現れる」という従来想定されていた描像とは異なる、より即時的な応答の存在を示唆する結果だ。

MCPのダークカウントの変動とSHAP値
(左)MCPのダークカウントの変動、(右)各特徴量の貢献度を表すグラフ。画像クリックで表示拡大(提供:名古屋大学リリース)

観測装置のノイズ(外乱信号)を「宇宙環境を反映する信号」としてとらえ直した今回の研究成果は、宇宙望遠鏡データの信頼性向上や、宇宙天気現象の新たな観測手法の開発につながる可能性がある。他の衛星データへの応用や、リアルタイム異常検知への展開も期待される。

関連記事