高エネルギー電子の不思議な起源

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地球の磁場は太陽からやってくる超音速粒子から地球を守っている。磁場のすぐ外側では粒子が乱され、一部の粒子は「フォアショック」という領域へ入る。人工衛星「テミス」の観測から、その荒れ狂った領域内で電子が光速近くまで加速されうることがわかった。

【2016年11月17日 NASA

超高速粒子は地球の近傍をはじめ宇宙のいろいろなところで観測されてきたが、その加速メカニズムは完全にはわかっていない。NASAの磁気圏観測衛星「テミス(THEMIS)」の観測から、地球の近くでは、地球磁場のすぐ外側にある「フォアショック」と呼ばれる領域で電子が光速近くまで加速されていることがわかった。しかし、その領域はこれまで加速が可能と考えられていたところよりも地球から遠く、一体何によって加速が引き起こされているのかは不明である。

地球に降り注ぐ粒子はまず最初に、「バウショック」と呼ばれる境界領域に入る。地球はバウショックによって太陽風から守られていて、バウショック内の磁場によって粒子の速度が落ち、ほとんどの粒子は地球からそれていく。一部は太陽の方向へ向かって押し返され、それらの粒子から電子やイオンが集まる「フォアショック領域」が形成される。

フォアショック領域内の粒子の一部は高エネルギーで高速の電子やイオンで、バウショックを行ったり来たりしながらエネルギーを得ると考えられてきた。しかし最新の観測は、フォアショック領域内での電磁気的な活動によっても粒子がエネルギーを得られることを示唆している。

古典的な粒子加速メカニズムの模式図。電子(黄)と陽子(青)が高温プラズマの泡の衝突領域(赤い垂直線)を移動している様子。水色の矢印は磁場、緑の矢印は電場を表す(提供:NASA Goddard's Scientific Visualization Studio/Tom Bridgman, data visualizer)

テミスが発見したのは、超高エネルギー状態にまで加速された電子だ。加速粒子が観測されたのは1分以下という短い継続時間だったものの、エネルギーはその領域における平均的な粒子よりもかなり高く、衝突だけでは説明のつかない速度だった。他の人工衛星の観測から、高エネルギー電子の起源が太陽活動ではないことも確かめられている。

「これまで考えもしない場所に高エネルギー電子が存在していることになります。この謎を説明できるモデルもなく、何かが見落とされているのです」(NASAゴダード宇宙飛行センター David Sibeckさん)。

もし電子がバウショック内で加速されていたとすると、電子の動く方向や位置は磁場と一致するはずだが、観測された電子はあらゆる方向に動いていた。さらにバウショックが生み出すエネルギーは、観測された電子のエネルギーの約10分の1しかない。電子の加速はフォアショック領域内で起こっているのだ。

「非常に小さなスケールの何かが関わっているようです。大きなスケールでは説明がつかないからです」(Wilsonさん)。

粒子がどのようにエネルギーを得て加速されるのかを理解することは、高速粒子による探査機の誤作動や宇宙飛行士への悪影響を防ぐために役立つ。電子加速の隠れたメカニズムを明らかにすべく、テミスはさらに観測を行う予定である。

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