マゼラン雲の超高温星が作り出した鮮やかな散光星雲
【2003年4月17日 ESO Press Release】
ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT(The Very Large Telescope)によって撮影された、大小マゼラン雲にある散光星雲の写真が公開された。これらの天体は電離してイオン化したガスが輝いて見えているものだ。
写真中の色はイオンや原子に特徴的な波長に応じて擬似的に付けられている。特に青は電離ヘリウムに対応しているが、この電離ヘリウムを生み出すためには高いエネルギーが必要となる。たとえば惑星状星雲の場合、中心にある高温の白色矮星からの強烈な紫外線の放射の影響でできた電離ヘリウムが観測される。しかし、散光星雲の場合には一般的にはこのような電離ヘリウムは観測されない。散光星雲としてこれまでに見つかっているのは、天の川銀河系に1つ、IC1613という銀河に1つ、そしてマゼラン雲に5つである。
このような散光星雲に見られる電離ヘリウムを生み出す元となっているのは、高速粒子や強烈なX線放射、大質量星からの紫外線放射などが考えられる。VLTでマゼラン雲中の散光星雲を観測したところ、写真にある4つの天体のうち3つからウォルフ・ライエ星という大質量の星が含まれていることが明らかになった(残り1つからはO型の星が見つかった)。ウォルフ・ライエ星のような大質量星は、太陽の20倍以上の質量があり、太陽の10万倍から1000万倍も明るく、表面温度は数万度にも達する。また、強い恒星風を吹き出しており、それによってガスを吹き飛ばし泡のような形を作り出している。
特に今回見つかったウォルフ・ライエ星の場合は、その表面温度は9万度以上、もっとも高温のものではなんと12万度にも達するということだ。電離ヘリウムは、遠方のスターバースト銀河(爆発的に星形成活動を行なっている銀河)やX線源の近くからも検出されている。これらの天体でも同じように高温の大質量星の影響で電離ヘリウムが発生しているのか、それとも別の原因なのだろうか。また、こういう高温星や電離ヘリウムの存在は、銀河の進化にどのような影響を与えるのだろうか。マゼラン雲という近いところにある散光星雲を観測することで、これらの謎が少しずつ解き明かされていくだろう。