アウトバーストから生き残ったりゅうこつ座エータ星
【2018年8月9日 HubbleSite】
地球から約7500光年彼方に位置する「りゅうこつ座η(エータ、イータ)星」は、天の川銀河の中で最も明るい星の一つである。太陽の数十倍の質量を持つ2つの星が連星をなしており、その明るさは太陽の数十万倍から数百万倍にも及ぶ。
現在は4~6等級ほどの明るさのりゅうこつ座η星は、1840年前後に突発的な大増光を起こし、当時全天で2番目に明るく見える星として夜空に輝いていた。このとき、超新星爆発に匹敵するほどのエネルギーが放出されたとみられているが、それにもかかわらず、りゅうこつ座η星は生き残っている。この増光のメカニズムについてはこれまで解明されていなかった。
米・アリゾナ大学のNathan Smithさんたちの研究チームは、チリ・ラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡とジェミニ南望遠鏡を使ってりゅうこつ座η星を観測した。170年前に星から放たれた光のうち、星の周囲に広がった物質で反射し、長い経路を通ったために2000年代になってようやく地球に届いた「光エコー」を観測することにより、Smithさんたちは170年前の噴出で周囲の物質が時速3000万km以上で膨張したことを明らかにした。これは予想の20倍も速いものだ。
一連の現象を説明できるシナリオとしては、2つの星が合体したというものが考えられるが、Smithさんたちは「りゅうこつ座η星はもともと3重連星系だった」という説を提案している。
- 最初、りゅうこつ座η星は、近接した2つの大質量星(A、B)と、そこから遠く離れた3つ目の星(C)とで構成された3重連星系だった。
- 近接した星のうちの重いほう(A)が年老いると膨張し、物質が軽いほう(B)へと流れていく。
- 物質を得たB星は太陽の100倍ほどまで重くなり、非常に明るくなる。一方、A星は外層を失い、太陽の30倍ほどまで質量を減らす。同時に、重力的なつり合いが変わってしまうため、A星とB星との間隔が広がる。
- 軽くなったA星は、遠くにあったC星の軌道をゆがめる。これによってC星は連星系の内側へと入り込んでくる。
- C星と、太陽の100倍の質量を持つB星とが相互作用し、B星の周囲に円盤を形成する。
- 最終的にB星とC星が合体する。このときに発生した爆風で物質が高速で広がり、それ以前に放出されて周囲に存在していた物質と衝突することで、物質が加熱されて光り輝くようになる。これが170年前の突発増光として観測されたものである。また、合体によって作られた双極の構造が、現在りゅうこつ座η星の周りに見られるダンベル状の構造である。
現在もA星とB星は連星をなしており、A星がB星の外層を5.5年周期で通過するたびに衝撃波でX線を放射する。
観測や研究でりゅうこつ座η星の大増光を調べることで、大質量星の進化や死を理解するために重要となる、連星の複雑な相互作用に関する理解が進むことが期待される。
〈参照〉
- HubbleSite:Astronomers Uncover New Clues to the Star that Wouldn’t Die
- Gemini Observatory:Astronomers Blown Away by Historic Stellar Blast
- MNRAS:論文
〈関連リンク〉
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