板垣さん発見の超新星を東アジアの電波望遠鏡で観測研究

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2023年5月に板垣公一さんが発見した超新星2023ixfの電波放射が日本VLBI観測網などで観測された。爆発前の星の質量放出が数十年前から活発化していたことがわかり、大質量星の進化過程の一端が示された。

【2025年1月16日 国立天文台水沢VLBI観測所

大質量星が進化の最終段階で起こす大爆発現象である超新星爆発は、一般的に可視光線で観測されているが、時おり電波放射を伴うものも観測される。この電波は、爆発を起こす前の星が周囲にガスを放出してできた星周物質と、爆発で飛び散った星の残骸との衝突によって生じると考えられている。そこで、超新星の電波強度の変化を観測すれば星周物質の濃淡がわかり、爆発前の大質量星がどのように質量を失い爆発に至ったのかという進化の歴史をたどることができる。

2023年5月19日(世界時)、山形県の板垣公一さんが、おおぐま座の銀河M101に超新星SN 2023ixfを発見した。SN 2023ixfはII型超新星(重力崩壊型超新星)で、地球から約2200万光年と非常に近い距離で発生した。このような超新星は10年に1度程度しか発見されない貴重な天体であり、国内外の多くの研究グループが追観測を実施した。

M101とSN 2023ixf
京都大学岡山天文台せいめい望遠鏡で撮影された銀河M101。(左)1枚目は超新星爆発の発生前、2~6枚目はSN 2023ixfが出現した2023年5月20日以降(提供:京都大学 岡山天文台/TriCCSチーム(京都大学・東京大学))

国立天文台水沢VLBI観測所の岩田悠平さんたちの研究チームは、国立天文台と日本の複数の大学が連携して構築した観測網「日本VLBI観測網(Japanese VLBI Network; JVN)」と韓国VLBI観測網(Korean VLBI Network; KVN)、VERAを用いて、SN 2023ixfの電波観測を実施した。

その結果、JVNの観測から、爆発の152日後、206日後、270日後に電波放射が検出された。KVNやVERAでは電波は検出されなかったが、電波強度の上限値を求めることができた。

SN 2023ixfの電波強度変動
JVN、KVN、VERAによって得られたSN 2023ixfの電波強度の変動。下三角は非検出の観測で、上限値を示す。色は観測した周波数帯の違いに対応(提供:©2025- Iwata et al.)

データを解析したところ、SN 2023ixfからの電波放射の強度がII型超新星の平均的なものより高かったこと、その強さが爆発の約206日後にピークに達し、典型的なII型超新星で観測されるピークに達するタイムスケールよりも長かったことが明らかになった。星周物質が、II型超新星としては極端に高いものではないものの、高い密度で存在していたことを示唆する結果だ。

さらに理論モデルとの比較から、爆発前の大質量星が星周物質をどのように放出していたかが推測され、爆発の約28年前から直前の6年前にかけて徐々に激しくガスを放出していたことが示された。

今回の観測で使用したVLBIは小規模ながら、迅速かつ高頻度での観測に向いている。今回の成果は、突発天体の研究に小規模VLBIが有用であることを改めて示したものといえる。今後、電波放射源が次第に大きくなっていく様子をとらえられれば、爆発による膨張運動の測定もできるだろう。また、様々な超新星に対して同様の電波観測を行うことで、大質量星の質量放出の多様性を解明する手がかりも得られるかもしれない。

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