藤井 旭のマックノート大彗星メモリアル
予想をはるかに超える見事なほうき星となって南半球の夜空を飾ったC/2006P1マックノート彗星。見に行くことができなかった天文ファンに、その雄姿をご覧にいれよう。前代未聞の姿を、過去に出現した大彗星たちと見比べてみるのもまた一興だろう。
“世紀の大彗星”に「ちょっと待った!」
過去の大彗星たちと見比べてみると……
前代未聞の巨大なマックノート彗星の姿だが、気を取り直してよく見てみると、日本では秋の宵の南の地平線上に姿を現すつる座が、彗星の尾の中に首を突っ込むようにして見えているのがわかった。目測では、地平線に沿って真横に広がるマックノート彗星の尾は、そのつる座の3倍ほどには伸びていないようだった。
つる座はそんなに大きな星座というイメージではないから、目の前でとてつもなく巨大な像として横たわっているように見えるマックノート彗星は、地平線近くの満月が実際よりもずっと大きく感じるのと同じ視覚効果のなせる業なのだろうか。
核の実態といい尾の長さといい、彗星の姿は何かと誇張されて印象づけられてしまうらしい、と独り納得しながら、いささかあきれつつ見入っていた。
そこでふと思いついたのが、過去に目にした名だたる大彗星とマックノート彗星の比較である。まず、白昼の彗星で思い出されるのは、42年前の池谷・関彗星だが、マイナス10等以上になって太陽の表面すれすれをグングン動いていったあのド迫力には、今回のマックノート彗星の青空の中での見え方はとても及ばなかったと言ってもいいだろう。
夜の頭部の明るさではどうか。これは、20世紀で最も明るいと言われ金星なみの輝きを見せたベネット彗星(1970年)の方が勝っていた。では、巨大なダストの尾ではどうだろうか。こちらは、明るさではウエスト彗星(1976年)の方が眼視的にははるかにクリアーだった。青いイオンの尾は、ヘール・ボップ彗星(1997年)の方がはっきりしていて、今回のマックノート彗星ではどういうわけかほとんど見えなかった。尾の全長は、と考えると百武彗星(1996年)の100度近く伸びた尾に比べると、40度とかなり劣る。
こうしてまとめてみると、マックノート彗星はベネット彗星とウエスト彗星を足して、横にビーッと引き伸ばしたようなイメージ、というのが一番ぴったりくるかもしれない。言い換えれば、過去の大彗星の特徴のほとんどを持ち合わせた華麗なほうき星だったとも言えるわけだ。
こんな美しくも迫力ある大彗星を夜空の澄んだチロ天文台で目にすることができたのは、なんという幸運かとしみじみ眺めるばかりだった。
※この記事は星ナビ2007年4月号から引用しました。