第12回 メガスターの次へ 〜国際宇宙会議での発表〜
(星ナビ2005年12月号に掲載)
長年温めてきた企画
とにかく大変な公開だった。
今回は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)らと進めているメガスターのデジタル化プロジェクトの一環として、国際宇宙会議で公開を行った。メガスターを出動させるだけなら今までの流れ通りでそれほど大変ではない。しかし宇宙開発関係の大規模な総会ということもあり、今までにないレベルである必要がある。
僕はずいぶん昔から温めていたひとつの演出企画があった。今まで技術的に不可能だったのが、全天周デジタル映像ができるようになって実現の可能性が出てきた。それで僕はその企画を形にしようと思ったのだ。最近は、上映番組の企画を人に多くを委ねることも増えてきたけれども(毎回全部自分でやるのでは身がもたない)、今回はイメージが全部自分の頭の中で決まっていて、それをどうやって形にするかだけが課題だった。だから関係者から色々な構成案や提案も出たけれども、全部断り、自分ですべて内容を決めさせてほしいとわがままなお願いをした。こういうやり方は、2001年上映の「火星への旅」(日本科学未来館)以来。どうも数年に1回くらい、自分の思い通りに番組や演出を組んでみたくなるらしい。国際宇宙会議はまさに願ってもない舞台だった。
時間がない!
しかしイメージは決まっているものの、状況は楽ではなかった。まず、限られた準備期間。準備にかかる膨大な仕事をどのようにこなすか。映像制作、プログラミングや改造、新機能である方位軸装置の設計制作、ナレーション編集まですべて自分でやるのだ。CGは、共同研究しているソニーテクノクリエイトの協力を得た。質感で妥協したくなかったのでそうとう無理を言ったが、ソニー側はそれを最大限満たすようにがんばってくれた。
システムも大規模になった。プロジェクタを9台使い、ドーム全面を覆う新型の全天周映像システムを構築することになった。しかし設営にかけられる時間がほんのわずかしかない。9台のプロジェクタから投影される映像のそれぞれの歪みを正確に把握し、補正して映像を作り上げるのは至難の業である。しかもエアドームは形状が簡単に変動する。動いている船から動いている的に矢を放つようなものだ。
そのためにいくつかの新技術を構築した。それが新開発のオートジオメトリ技術だった。映像の歪みを自動的に測定し、補正して9つの映像を一様につながったようにする。そのためにいくつかの改造やツールの製作を行い準備を進めてきた。けれども結論からいうと、この新兵器は今回まともに機能しなかった。論理的には正しかったが、あまりに無謀な短期開発のため、技術的に未熟で、現場で安定して機能する検証が取れていなかったのだ。新兵器を奪われた僕らは、現場で急遽、代替策を構築し、何とか上映に間に合わせた。結局投影したものは、明らかに歪みの不自然さが残る状態。思い入れが強かっただけに正直残念だった。けれどもお客さんの反応が良かったのが救いだった。内容を評価してもらえたのは大きかった。公開期間中も手作業で改良を進め、最終日ころにはだいぶ改善ができたのも良かったと思う(おかげで期間中も修羅場になってしまったが……)。
こうして、大平貴之プロデュース、制作の新番組「INFINITY(前編)」は何とか生まれた。すべてイメージ通りとはいかなかったが、常々課題にしていたメガスターに続くヒットへの手ごたえを感じる。宿題は山積みになったが、時間をかけて開発すれば確実にクリアできるだろう。見通しは明るい。また近く、発表の場が作れるかもしれない。作業場も近く移設して広くなる。新しい環境でじっくり開発に取り組み、次のチャンスには最高の形で披露したいと思う。次のステップに向けてとてもよい機会になった。皆さんに心からお礼を申し上げたい。