第14回 メガスターとスタープロジェクター
(星ナビ2006年2月号に掲載)
いよいよ新事務所に引っ越しました。実に快適です。冷暖房が完備され、作業机や事務机がいくつも置け、資材の保管や整理も問題なく、ダイレクトに荷物搬出入ができる車庫もあり……何もかも以前と大違いです。小規模ながら専用の工作機械や測定機材なども導入し、ますますモノ作りの環境が整ってきて、まさに夢のよう。そんな環境での、最初の仕事を紹介します。
この冬、東京のお台場にある2つの施設・日本科学未来館とソニー・エクスプローラサイエンスのプラネタリウムで、それぞれ新番組が導入となった。
僕のメガスターIIcosmosが常設されている日本科学未来館では、2004年の7月以来上映を続けてきた「新しい眺め」が終了し、新番組に切り替わったのだ。タイトルは「暗やみの色」。宇宙の暗闇で見えないものを見たい、というコンセプトで、肉眼で見えない波長での観測などで、普段認識しない宇宙の姿を切り拓く内容だ。
僕が感慨深く思うのは、今回の番組制作に僕はあまり重点的にかかわらず、未来館スタッフが自力で作り上げた点だ。「新しい眺め」は、時間もない中で未来館も手探りの制作だったが、1年半にわたる公開、様々な関連企画を通じて、未来館としてのメガスター観が明確になってきたように思う。僕にとっては、自分の作品や思いが未来館に定着して、未来館ならではの形で発展していく様子を深く感じられたできごとであった。
一方、ソニー・エクスプローラサイエンスでは、2003年のクリスマスに未来館で上映した「星空の贈りもの」の公開と、関連イベント「大平貴之とプラネタリウム展」を開催する。ここには、メガスターの技術をもとにソニーが開発した、スタープロジェクター(星数170万個)が設置されている。スタープロジェクター開発について語ると長くなるが、開発当時、僕自身がソニーの社員であり、もともと個人で開発したプラネタリウム技術を当時の勤務先であるソニーがライセンスを受け、製品化に向けて開発するという大胆な試みだった。スタープロジェクターの開発には成功したが、事業としては諸々の経緯があってうまくいかなかった。その後、日本科学未来館でメガスターIIcosmosの開発に邁進するようになり、スタープロジェクターには関与することなく、ここまで来た。
そのスタープロジェクターの星空で、かつて未来館で上映した自分の番組を公開し、自分自身の展覧会を開催することになった不思議を思う。今まで多くを語られなかったソニーとメガスターの関係を、ここで少しだけ感じてもらえることになるだろう。それは最近、方々で議論され始めている企業と個人の関わりについても、大切な意味があることだと思う。こういう機会をつくってくれたソニーには感謝したい。