地下海が存在するか、カリスト
【2001年8月2日 国立天文台・天文ニュース (462)】
木星の衛星カリストの地下には液体状の海があるかもしれません。もしこれが正しいなら、その海はこの衛星が生まれて以来凍らずに、現在まで引き続き存在していたものと思われます。
木星には、ガリレオ衛星といわれる4個の大きな衛星、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストがあります。イオには活火山がある、エウロパには内部は液体の氷の海があり、生命が存在するかもしれない、ガニメデは太陽系最大の衛星であるなど、これらの3衛星は話題に取り巻かれています。これに反し、木星からもっとも遠いカリストだけは変化のないほとんど死んだ天体で、比較的つまらない衛星と考えられていました。しかし、マドリード総合大学のルイス(Ruiz,J.)は、これまですべて氷結していると思われていたカリストの内部に、液体の海が存在する可能性を指摘しました。
カリストは、水星とほとんど同じ大きさがあり、その表面は不純物を含んだ氷の層で覆われ、クレーターが全面に分布しています。このカリストに内部の海の存在を最初に示唆したのは、ガリレオ探査機による磁場の観測でした。探査機の磁力計は、カリストの磁場が変化することを突き止めたのです。この変化の原因をもっとも単純に説明するのは、カリストの内部に塩類を多量に含んだ電解質の液体の海が存在することです。電気伝導度を持つ物質のダイナモ効果によって磁場の変化がもたらされるからです。
しかし、液体の海が凍らずに残っているためには、何かの熱源があるか、あるいは熱の流出を防ぐ機構があるかでなければなりません。ルイスは、一種の断熱壁として、カリストを構成している氷の性質に眼をつけました。
氷には、圧力、温度によって12種以上の結晶構造があり、非晶質の構造も2種あります。そのため、圧力、温度の変化によって、たとえば粘性、滑りやすさといった物理的性質が急激に変化することがあります。これまでの衛星のモデルでは、ごく単純な氷に対する性質だけしか考慮していませんでした。ルイスは、衛星の熱進化のモデルにこの複雑な氷の性質を取り入れ、氷と水との構造的応答を含めて考えることで、カリストの地下約150キロメートルに、20キロメートル程度の深さで液体の海が存在する可能性があると結論したのです。これはまだ確定的な結果とはいえませんが、ルイスのこの考え方は、その他の太陽系の衛星に対しても、その熱構造史を考え直す契機になるものと思われます。
<参照>
- Ruiz, J. Nature 412,p.409-411(2001)
- Bennett, K.A., Nature 412, p.395-396(2001).
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