日本の太陽観測衛星「SOLAR-B」打ち上げへ
【2006年7月14日 JAXA 宇宙ニュース】
JAXAは7月12日、宇宙開発委員会に太陽観測衛星SOLAR-Bの打ち上げ概要を報告した。「ようこう」の後継機にあたるSOLAR-Bは、3つの望遠鏡を搭載し多波長で太陽を観測できるのが特徴だ。今年度中に予定されている打ち上げには、「はやぶさ」や「あかり」などを宇宙に送り出したM-Vロケットの7号機が使われる。
3つの目で太陽コロナと磁場の謎に迫る、SOLAR-B
SOLAR-Bは「ひのとり(1981年打ち上げ)」、「ようこう(1991年打ち上げ)」に続く、日本が打ち上げる3機目の太陽観測衛星だ。他の2機はX線による観測が中心だったのに対して、可視光、極端紫外線、軟X線の3つの望遠鏡を搭載し多波長による同時観測を行えるのが特徴である。
SOLAR-Bが挑む最大のテーマは、「コロナ加熱問題(解説参照)」である。コロナと、コロナの構造や活動を支配する太陽磁場のしくみは、天文学における大きな謎の1つだ。同時に、太陽表面における活発な活動は、太陽風などの形となって地球上の通信や人工衛星に深刻な影響を及ぼす。この、いわゆる「宇宙天気」の予報精度を向上させることで、SOLAR-Bの成果はわれわれの生活にも大きな利益をもたらしてくれると期待される。
3つの望遠鏡は、日・米・欧の国際協力で開発された。いずれも、これまでの同種望遠鏡に比べて高い解像度と感度を誇る。
口径50センチメートルの可視光磁場望遠鏡(SOT)は、大気圏外から太陽を見つめる最大の瞳となる。太陽表面(光球)の磁場のようすや物質の動きを観測する。多彩な撮像・分光観測機能を持っていて、高い時間分解能で2次元動画を取得したり、磁場を立体的に診断することも可能だ。
X線望遠鏡(XRT)は「ようこう」の3倍高い解像度を持つ。高温に達するコロナは主にX線で観測されるが、XRTは他の太陽観測衛星が見られなかった1000万度を超える高温のコロナを見ることができるだけでなく、100万度以下のプラズマの観測にも対応でき、コロナのダイナミックな活動を画像として取得する。
極紫外撮像分光装置(EIS)は、紫外線を高い感度・解像度・波長分解能で測定し、太陽大気の精密診断を行う。特に、温度8000度の彩層(光球を包む領域)と温度数百万度のコロナの間にある薄い遷移層について詳しい観測を行うことで、「コロナ加熱問題」に迫る。
SOLAR-Bは高度630キロメートルの太陽同期極軌道、すなわち地球の昼と夜の境界線上を飛行する。1年間のうち約8か月は、24時間地球の影に入ることがないため、太陽の活動を連続的にとらえることができるのが強みだ。
打ち上げの概要
SOLAR-Bを乗せて鹿児島県内之浦から飛び立つのが、M-Vロケットの7号機だ。これまでに小惑星探査機「はやぶさ」(5号機)、X線観測衛星「すざく」(6号機)、赤外線観測衛星「あかり」(8号機)などを打ち上げてきた旧宇宙科学研究所(ISAS)のロケットである。
全長31メートルで質量は140トン。約0.9トンのSOLAR-Bとともに、バランスウェイトを活用して2つの実験用小型衛星、「バス部機能実証超小型衛星」と「ソーラ電力セイル実証超小型衛星」を軌道に投入する。打ち上げ時間帯は午前6時から7時の間の予定だが、時期は未定。観測は最低3年間予定されているが、先代の「ようこう」は10年以上も観測を続けた。SOLAR-Bの打ち上げの成功とこれまで以上の成果に期待したいところだ。
コロナ加熱問題
太陽大気のコロナの部分は100万度以上と高熱だ。コロナは、明るさが100万分の1ほどしかないのに、表面温度6000度の太陽本体に比べて、なぜこれほどまでに高温になるのかはよくわかっておらず、「コロナ加熱問題」として太陽の謎の1つとされている。太陽磁場が関係しているという説もあるが、確定されてはいない。(「150のQ&Aで解き明かす 宇宙のなぞ研究室」『太陽からは何が放出されている?』より抜粋)