「すざく」最新観測成果(1) 天の川中心の激動
【2006年12月6日 宇宙科学研究本部】
12月中旬発行予定の日本天文学会欧文誌は、日本のX線天文衛星「すざく」を特集することになった。幅広い種類のX線を観測できるのが「すざく」の強みだが、科学的成果も多岐にわたっている。欧文誌に掲載される論文の1つは、われわれの天の川中心部で次から次へと爆発的現象が起こっていることを指摘したものである。
いて座の方向、天の川銀河の中心付近からはあちこちでさまざまな電磁波が放出されている。とりわけ「いて座A」や「いて座B」といった電波源が有名だ。「すざく」はこの領域をX線の目で探り、どのような活動が起こっているのかを調べた。
いて座A付近には「火の玉」のように広がったX線源がある。その正体を探るには放出されているX線の波長を調べればよいのだが、X線の種類は実にさまざまである上に、それぞれの波長が近い。従来の装置に比べてX線の波長の違いを検出する能力に優れた「すざく」のX線CCDカメラ(XIS)は、このような天体を調べるにはもってこいだ。さまざまな元素が発する異なる波長のX線を見分けることで、「すざく」は他の可能性を排除し、火の玉が温度7000万度に相当する超高温のプラズマ(物質がイオンと電子に分かれた状態)であることをつきとめた。
さらに、この領域には数多くの超新星残骸が存在することもわかった。恒星の生涯の最期に起こる超新星爆発はばく大なエネルギーを生み出し、その中で大量の重元素が生まれる。「すざく」は鉄などの重元素が発するX線の、天の川銀河中心付近における分布を探ることに初めて成功し、形成されたての超新星残骸を相次いで発見したのだ。未発見の超新星残骸はまだ数多く潜んでいて、それらが重なり合うことで半径500光年のプラズマ球が形成されたようである。
一方、いて座B付近にはいくつかの分子雲が広がっている。そこの物質はプラズマに比べて温度が低く、ガスを構成する粒子がイオンと電子に分かれずに存在している。エネルギーが低いためX線が放射されることはないが、外部からX線で照らされると、内部の物質が特徴的なX線を放射する。「すざく」はこのうち、鉄が放射するX線を詳しく調べた。
いて座Bの分子雲にX線を浴びせているのはおもに、300光年離れた位置にある天の川銀河中心の超巨大ブラックホール(解説参照)だ。逆に言えば、分子雲中の鉄が発するX線は、超巨大ブラックホールの活動のバロメーターにもなる。ところで、いて座Bの分子雲を「すざく」の先代であるX線天文衛星「あすか」も観測している。興味深いことに、1994年の「あすか」の画像には写っていない分子雲が、今回の「すざく」によるX線画像には写っていた。
「あすか」は「いて座B2」と呼ばれる分子雲はとらえていたのだが、「すざく」はいて座B2に加えて「M0.74-0.09」と呼ばれる分子雲がX線で輝き始めているのを発見した。どうやら、超巨大ブラックホールが発したX線は、1994年の時点でいて座B2まで到達していて、それから10年あまりかけてM0.74-0.09へ到達したようだ。逆算すれば、超巨大ブラックホールではその300年ほど前に強いX線の放射を伴う爆発的現象が起こったということになる。
天文学において「300年」といえばひじょうに短い時間だ。その意味で、「すざく」の観測結果は銀河中心の超巨大ブラックホールが起こした爆発の「瞬間」を検出したといっても過言ではない。
アストロアーツニュースでは今後数回にわたって、日本天文学会欧文誌に掲載される「すざく」の成果を紹介する予定です。
巨大ブラックホール
巨大ブラックホールは銀河の中心にあり、太陽質量の100万倍〜10億倍に達する強大なもので、恒星進化の末に生まれるブラックホールと区別される。これらの巨大ブラックホールの質量は、ほぼ銀河の質量に比例しているため、銀河の進化の過程において重要な役割をしていると考えられている。(「最新デジタル宇宙大百科」より抜粋)