「ひので」で見る太陽上空の超高温領域とその変化
【2006年12月20日 国立天文台】
日本の太陽観測衛星「ひので」がX線の目で見た太陽の動画が公開された。太陽表面の外に広がる数百万度の領域とその変化がとらえられている。何が上空の物質を加熱しているのかを探るのが、「ひので」の重要な目的の1つだ。
数百万度に加熱されたプラズマ(物質が電子とイオンに分かれた状態)は、X線で輝く。「ひので」のX線望遠鏡(XRT)がとらえた画像を見ると、表面は暗いのに、周辺はぼんやりと輝いていて、ところどころにとても明るい点(活動領域)があることがわかる。太陽の表面よりも、その上空(コロナ)の方が圧倒的に高温なのだ。この矛盾(コロナ加熱問題)を解くのが「ひので」の重要な目的の1つで、XRTはコロナの構造を詳細に観測することで謎に迫る。
活動領域は、可視光では「黒点」として見える部分などに多く現れる。黒点は、表面上で比較的温度が低い点だが、強い磁場が発生している場所でもある。太陽の自転に伴い活動領域も動くし、活動領域自体が増光・爆発・噴出といった変化を示す。XRTが撮影した画像をつなぎあわせた動画からは、変化の激しさを実感できる。
XRTは約12時間毎に太陽全面画像をとらえており、公開された動画(リリース元では動画AとB)は、12日間の動きについて早回しにして示した動画となっている。太陽の自転に伴って、1つの活動領域が西の縁に隠れていく様子と、別の活動領域が東の縁から現れてくる様子がとらえられている。太陽全面のいたるところに見える明るく小さな輝点は、活動領域以外でも活発な磁場活動があることを示すもので、興味深い現象となっている。
また、活動領域に注目した動画も公開された(リリース元では動画CとD)。同じ活動領域を観測した2つの動画のうち、Cは時間間隔を短くして細かい変化を見られるようにしたもので、Dは時間間隔を長くして14時間程度を早回しにしたものとなっている。多くの筋模様が見えているが、これらは太陽表面の磁場から上空へ広がった磁力線構造を示している。プラズマは磁力線に捕らわれ易い性質を持っており、また、磁力線ごとにプラズマの温度や密度が異なるために、筋状(コロナループ)に見えている。動画からは、ループの明るさや形状が一定ではなく、頻繁な増光現象や噴出しているような様子が見てとれる。このような小さな突発現象のエネルギー解放の仕組みを研究することも、コロナ全体の加熱の仕組みを解く手がかりとなる。
「ひので」衛星は画像中央にある活動領域を追尾しながら、約1週間連続観測を行った。そのためこの動画(リリース元では動画E)では、太陽の自転に伴なって活動領域が東から西へと移動するにつれ、画面上では太陽全体が西から東へと移動して見えている。中央の活動領域は明るすぎて、色が白く飛んでよく見えないが、ときおり起きる爆発に伴って、活動領域周辺のループ構造の明るさや構造が変化しているのがよく見える。太陽コロナの現象では、一見1か所で起きているような現象でも、周囲の広い範囲に影響を与えたり、逆に影響を受けて発生したりすることがよくあるが、これはその一例といえる。
(アストロアーツニュース編集部注)なお、このニュースで紹介したすべての動画(A、B、C、D、E)は、すべてリリース元で公開されています。以下の「ひので 搭載X線望遠鏡の動画公開」をご覧ください。