すばる望遠鏡、「分裂彗星」の破片を50個以上とらえていた

【2007年4月25日 すばる望遠鏡国立天文台 アストロ・トピックス(293)

昨年5月に地球に接近したシュワスマン・ワハマン彗星(73P)は、本体(核)が次々と分裂して話題になった。すばる望遠鏡もこのようすを撮影し、13個の破片をとらえたことが接近のさなかに発表されている。その後画像を分析したところ、分裂核の数は50個以上にのぼることがわかった。


(アストロ・トピックスより)

すばる望遠鏡がとらえたシュワスマン・ワハマン彗星

すばる望遠鏡が捉えたシュワスマン・ワハマン彗星。左上角の明るいB核の周りに微小な分裂核が点在する。彗星の動きに合わせて望遠鏡を駆動させているため、恒星は線状に伸びている。クリックで拡大(提供:国立天文台、使用観測装置:すばる主焦点カメラSuprime-Cam、フィルター/R(0.65μm)、観測日時/世界時2006年5月3日、露出時間/8分、視野/約1.6分角×約1.1分角、画像の向き/上が北、左が東)

国立天文台ハワイ観測所の布施哲治(ふせてつはる)研究員を中心とする研究チームは、2006年5月にすばる望遠鏡を用いて地球へ接近しつつあるシュヴァスマン・ヴァハマン第3彗星(73P/Schwassmann-Wachmann 3、シュワスマン・ワハマン第3彗星とも呼ばれる:以後、SW3彗星)のB核と呼ばれる本体が崩れていく様子の撮影に成功し、分裂後まもない13個の微小核が写る画像を速報として観測直後に発表しました。引き続いて行われた本格的な画像解析により、観測データには前回報告の13個を含む50個以上もの分裂核が写っていることが、このほど明らかになりました。

SW3彗星は、これまで1995年と2000年に核が分裂したことが知られていました。その分裂した核のうち、B核と呼ばれる直径が数百メートルの核は、2006年4月にもさらに小さく分裂したという報告があります。

研究チームは翌月の5月3日、地球から1650万キロメートル離れたSW3彗星をすばる望遠鏡の主焦点カメラ(Suprime-Cam)で撮影し、画像から分裂後まもない13個の微小な核を検出しました(国立天文台アストロ・トピックス 211参照)。

13個の核を発見した画像は、公開までの時間的な制約から、簡易な画像処理しか行っていないものでした。その後、研究チームでは本格的な画像解析を実施し、明るいB核の影響を取り除いて、分裂した微小な核の検出が容易にできるようにしました。続いて、撮影した画像全体の中から、B核の南西方向のおよそ縦5500キロメートル、横7700キロメートルの範囲(およそ1.1分角×1.6分角に相当)を切り出して調べた結果、当初の予想をはるかに上回る54個もの微小な核の発見に成功しました。

研究チームの山本直孝(やまもとなおたか)研究員(産業技術総合研究所)は、「解析を進めるにつれ、次々と分裂核が見えてきた時は眠れなくなるほどでした。すばるの能力を存分に発揮できた成果といえるでしょう」と語っています。

また、B核と同様に2006年4月以前に分裂した大きなC核やE核は、B核から離れているため、B核を中心に撮影した今回の画像全体(およそ0.5度四方:満月の大きさに匹敵)には写っていませんが、B核とC核、およびB核とE核の間に未発見の微小な核を検出できる可能性は残ります。このため、これらの微小な核を発見すべく、研究チームは大型望遠鏡でも広範囲を一度に撮影できる主焦点カメラの特徴を活かし、B核を中心とした画像全体(縦13万キロメートル、横17万キロメートルの範囲:主焦点カメラの一視野分に相当)に対象を広げさらに探査しました。この観測の制約(限界等級が24.3等級であること)を考えると、直径数メートルから10メートル程度以上の分裂核であれば発見できるはずでしたが、拡大した探査範囲にはその存在を確認できませんでした。この理由について「分裂から時間が経過しているため、小さな核はさらに小さくなり検出不可能になった」と仮定すれば、今後、分裂核の寿命に迫れるかもしれません。

約46億年前に太陽系が形成された時の状態を保つとされる彗星。その本体である核は、氷とチリが混ざった、いわば“汚れた雪だるま”のようなものといわれます。布施研究員は、「今回のような彗星に関する研究が進み、核の素性が明らかになるにつれ、太陽系誕生時の情報一つ一つが紐解かれていくことでしょう」と、今後の観測や研究に期待しています。

本成果は、2007年4月25日発行の日本天文学会欧文研究報告誌に発表されました。また、微小な分裂核が写る画像は、同誌の表紙を飾っています。