火星探査車スピリット、動かぬ車輪から思わぬ成果
【2007年5月23日 JPL News Releases】
耐用時間をはるかに超えて走り続ける火星探査車スピリット。6つある車輪の1つが故障し、引きずりながら移動する苦しい状態だ。だが、火星の土壌に深く食い込んだ車輪が、思わぬ幸運を掘り当てたらしい。
NASAが火星に送った双子の探査車、スピリットとオポチュニティーは、2004年から探査を続けており、火星における火山活動や水の存在を示す地形や物質など重要な成果をもたらしている。しかし、火星で過ごしてきた年数を隠せない兆候が出ているのも事実だ。実は、スピリットに6つある車輪のうち1つは動かなくなっている。そのため、探査車の通った後には、車輪をひきずった深い溝が残されるのだ。今回はこの不幸が幸いし、新たな水の存在を示す証拠の発見となった。
先月、スピリットが車輪をひきずった跡に明るい色の土が発見された。そこで、スピリットはまずこの土を小型熱放射分光計(Mini-TES)を使って調べ、二酸化ケイ素であることを明らかにした。Mini-TESは、離れた場所からでも物質の組成を調べることのできる機器なのだ。その後、この場所に戻ったスピリットは調査を開始した。使用されたのは、アルファ粒子とX線を照射して元素の種類や量を知ることができる、スピリットの腕の先に搭載されたアルファ粒子・X線分光器(APXS)。そして、この明るい土が濃度約90パーセントの二酸化ケイ素であることが明らかとなったのだ。
このような高濃度の二酸化ケイ素の発見は初めてのことだ。その形成原因については、温泉のような環境や、火山性の活動によって酸性の蒸気と土が反応したためではないかと考えられている。
NASA・エイムズ研究所の宇宙生物学者David Des Marais氏は、「今回の発見で、地球に似た生命に優しい環境が火星に存在していたことが示されました。これは、ひじょうに興味深いことです」と話している。
なお、二酸化ケイ素は地球上にも水晶などの結晶構造を持つ物質として存在しており、一般的にはガラスの主成分として使用されている。しかし、今回発見された火星の二酸化ケイ素には、結晶構造は検出されていない。