無人火星探査車オポチュニティー、虎穴に入る
【2007年7月4日 NASA Mission News】
NASAの火星無人探査車オポチュニティーがビクトリア・クレーター内部を探査することが決まった。クレーターの深さは数十メートルあり、内部への下降はさまざまな危険を伴う。片道の旅となる可能性が指摘される中で、NASAは相応の成果が得られるとして決断にふみ切った。
無人探査車オポチュニティーが火星に到着したのは、2004年1月。探査の日数は、当初予定されていた90日間を大きく上回り、すでに1000日以上に達している。オポチュニティーは9か月前から、ビクトリア・クレーターの縁で露出した岩石の層の探査を行いながら、内部へ下降するためのポイント探しを行っていた。
ビクトリア・クレーターの直径は約800メートルで、数百万年前に起きた隕石の衝突で形成されたと考えられている。衝突でえぐられ、地表に口を開けたクレーターの内部では、深くなればなるほど地層の年代が古くなるはずだ。オポチュニティーの探査で、かなり古い年代における水の証拠が得られるのではないかと期待されている。
その興味深いクレーターの内部を探るために、NASAでは、オポチュニティーが集めた情報をもとに「ダック・ベイ(Duck Bay)」と呼ばれる地点を選び出した。「ダック・ベイ」は傾斜が15度から20度ほどのゆるやかなスロープで、下降に適している。
NASAの科学探査ミッションにたずさわるAlan Stern氏は、「オポチュニティーがクレーターの外へ再び戻って来られるかどうか確実な保証はなく、わたしたちはこのことを深刻に受け止めています。しかし、それを承知で決断にふみ切ったのは、相応の価値があると考えたからです。このミッションが初期の目標をすでに達成していることも、大きな決断の材料となったのも事実です」と話している。
6つの車輪がすべて正常に動作すれば、オポチュニティーは戻ってくることができるはずだ。しかし、すでに設計上の寿命を大幅に超えているため、いつ故障が起きても不思議はない。オポチュニティーの双子の探査車スピリットは、1年前に車輪の1つを失っており、坂を登る力はとくに小さくなっている。
探査機器の主任研究員であるSteve Squyres氏は、「まだ他にも探査したい場所はありますから、片道の旅にしたくはありません。が、もしオポチュニティーがクレーター内部で動けなくなっても、それだけ価値のある貴重な情報が得られるでしょう」と話している。
なお、火星では1週間以上前から巨大な砂嵐が発生している。そのため、砂ぼこりによって太陽の光がさえぎられ、太陽電池で作動するオポチュニティーはじゅうぶんな電力を得ることができずにいる。オポチュニティーによる計測では先週、大気の不透明度が過去最悪となっている。この影響で、下降の実施は7月13日ごろまで延期されることになりそうだ。