土星の衛星エンケラドスの地下には海が存在可能
【2010年10月14日 NASA】
土星の衛星エンケラドスの南極からは水蒸気や氷の粒が噴出しており、地下に大量の水をたたえた海が存在しているのかもしれないと考えられている。通常ならエンケラドスのような衛星では水は冷え固まってしまうはずだが、どうして液体として存在できるのか、そのメカニズムが最新の研究で示された。
土星の衛星エンケラドスの南極には複数の割れ目があり、そこから水蒸気や氷の粒を含むジェットが噴き出している。水には塩分が含まれていることも分析から明らかになっており、氷に覆われたエンケラドスの地下には、大量の水をたたえた海が存在しているかもしれないと考えられている。
また、土星探査機カッシーニの観測データから、同衛星の南極から放射されている熱量が約130億ワットであると計算されている。しかし、地下にある水を液体のままとどめておけるような温度を保つメカニズムとは、いったいどんなものなのだろうか。
エンケラドスのように地球より外側に軌道を持つ太陽系の天体は、氷と岩石が融合して成長する。その際に岩石がかなりの量あれば、そこに含まれる放射性元素の崩壊によって、天体内部が解けるほどの熱が発生するだろう。しかしエンケラドスのような小さな衛星では、長期にわたって熱を生成し続けられるほど放射性元素の埋蔵量は多くないので、天体はすぐに冷えて固まってしまう。つまり、内部に液体が存在していたとしても、とうの昔に凍ってしまっているはずなのである。
NASAゴダード宇宙センターのTerry Hurford博士らとカッシーニに携わる研究者たちのチームは、潮汐力が熱生成の役割を果たしているのではないかと考えた。エンケラドスが楕円形の公転軌道を移動するたびに、土星に近づいたり遠ざかったりしている。するとエンケラドスにかかる土星の重力が変化するため形がわずかに変形し、エンケラドスの奥深い内部で摩擦が起きて熱が発生すると考えられるというのだ。
また、潮汐力がエンケラドスの割れ目に作用すると、両端が開いたり閉じたりし、向かい合う両端の位置も数十cmから数m単位で互いにずれる。このような動きで起きる摩擦によってとくに温度の高い熱が放出される地点は、潮汐力の加わり方から予測可能なはずだという。
研究チームではエンケラドスの割れ目が受ける潮汐力の地図を作成して、カッシーニの観測によって得られた温度の比較的高い領域の地図と比較した。強い潮汐力を受ける場所がもっとも強く摩擦が起きると仮定したのである。その結果、もっとも高い熱を放出する場所と潮汐力の影響をもっとも大きく受ける領域とが、ぴったりとまではいかないまでも、一致したのである。
完璧な一致が見られなかった理由は、エンケラドスの自転が一定していないためと考えられている。エンケラドスは完全な球形をしていないため、自転しながらふらついて(秤動して)いるのだ。そこで、コンピュータ・シミュレーションによって、さまざまな秤動に対応したエンケラドスの表面が受ける潮汐力の地図を作成した。すると今度は、もっとも大きな潮汐力を受ける領域と観測されたもっとも温度の高い領域がぴったりと一致したのだ。なお、最高の一致が見られた秤動の範囲は、2度から0.75度であった。