土星の衛星エンケラドス、生命探しの候補に浮上
【2006年4月28日 NASA News Releases】
NASAの探査機カッシーニが土星とその衛星を観察し始めて以来、常に土星と同じくらい、ときにはそれ以上に注目されていたのが最大の衛星タイタンだった。しかし、1年以上に及ぶ探査の中で、科学者の目はタイタン以外の衛星にも向きつつある。タイタンが期待はずれだったのではない(むしろ次から次へと面白い報告がされているのはご承知のとおり!)。他の衛星も、タイタンと同じくらい面白いのだ。特に脚光を浴びているのが、エンケラドス。これまでも活発な地質活動で知られていたが、どうやら液体の水が存在するかもしれないという。この衛星の特異な性質は、土星系全体に影響を及ぼしているらしい。そして当然ながら、生命の存在についても興味が持たれるところだ。
「こんなに小さく、こんなに冷たい天体に、液体の水が存在する証拠をつかんだと結論づけるのが、過激な物言いなのは承知の上です。しかし、私たちが正しいのだとすれば、太陽系内で生命探しの対象となる場所が、確実に増えたと言えるでしょう」とカッシーニ画像分析チームのリーダー、ポルコ(Carolyn Porco)教授は語る。
右の写真は、カッシーニの高解像度カメラがとらえた、エンケラドスの表面における爆発と物質の噴出だ。といってもここは極寒の世界で、吹き飛ばされているのは氷のかけら。問題は、衛星の表面で何が起きているかだ。氷が水蒸気に昇華したときに周りの氷を吹き飛ばしたという説もあったが、これは否定された。その代わりに、もっと面白いメカニズムが存在する証拠が見つかった。なんと、衛星表面のごく浅いところに摂氏0度以上で液体の水が存在し、これが間欠泉のように吹き出しているというのだ。
地球以外の天体で、地下に液体の水があるかもしれないという話題は、木星の衛星であるエウロパを筆頭に何度もあがっているので今さらと思われるかもしれない。しかし、エウロパなどでは少なくとも数キロメートルの分厚い地殻に覆われているのに対して、エンケラドスの水は地下わずか数十メートルにあると見られる。エウロパの場合は、表面の地質的特徴から地下に海があるかもしれないと推定するしかなかった。エンケラドスでは、私たちはまさに表面から吹き出す水そのものを見ているのだ。画期的なことである。
氷を最大で数百キロメートルの高さまで吹き飛ばすほど激しい活動は、ここが非常に冷たい環境だということを考慮すれば、間欠泉というよりは火山と呼ぶのがふさわしい。こうした「氷火山」は他にも、海王星の衛星トリトンで見つかっている。今のところ知られている、太陽系で火山活動を起こしている天体は、他に木星の衛星イオとわれわれの地球を残すのみだ。
この珍しい特徴が、土星系全体にも影響を与えていることがわかった。カッシーニが土星に到達して以来、土星の周囲が酸素原子で満たされていたことに多くの科学者が首をかしげていたが、これはエンケラドスの氷火山によって説明できる。エンケラドスの外に吹き飛ばされた水分子は、宇宙空間で酸素原子と水素原子に分解され、周囲に充満することになるのだ。
まだ解決すべき疑問は多い。そもそも、エンケラドスの活発な地質活動はなぜ引き起こされるのか。今回撮影された噴火の現場以外にも、活動している領域はあるのだろうか? そして何より、この環境ではたして生命は生まれているのだろうか? その意味ではエンケラドスの研究はまだまだ始まったばかりだが、少なくとも土星の衛星といえば最大のタイタンばかりが注目されたのは過去のことと言えよう。